【消費者意識調査】6月末終了「キャッシュレス・ポイント還元事業」の満足度は80.7%
- 昨年10月より消費税率引上げに伴う需要平準化対策として実施された「キャッシュレス・ポイント還元事業」が今年6月末に終了します。9ヶ月間の還元事業を経て、キャッシュレスは私たちに最も身近な決済手段として発展したのでしょうか。
東洋大学経済学部教授 川野祐司氏監修のもと、全国消費者1,000人に「キャッシュレス・ポイント還元事業」について意識調査を行い、同事業の満足度と実施期間中における決済割合の変化を明らかにし、同事業終了後の対策や9月から実施されるマイナポイント事業の課題について解説していただきました。
調査回答者の属性(n=1,000)
- 性別:男性33.3%/女性66.7%
- 年代:20代24.9%/30代32.6%/40代28.1%/50代10.9%/60代3.5%
- 婚姻:未婚48.1%/既婚51.9%
- 職業:正社員35.5%/契約社員・嘱託社員4.2%/派遣社員4.2%/パート・アルバイト16.5%/フリーランス・業務委託6.3%/自営業・自由業4.9%/専業主婦(主夫)17.9%/学生3.5%/無職7.0%
- 年収:100万円未満32.9%/100万円以上~150万円未満10.2%/150万円以上~300万円未満23.9%/300万円以上~500万円未満20.3%/500万円以上~700万円未満6.0%/700万円以上~1,000万円未満5.3%/1,000万円以上1.4%
調査1:キャッシュレス・ポイント還元事業の満足度
全国消費者1,000人にキャッシュレス・ポイント還元事業の満足度について調査したところ、「とても満足」22.5%、「やや満足」57.9%を合わせて満足度は80.4%と、およそ5人に4人が満足しているという結果でした。
満足の理由として、「ポイント還元がお得だから」が656人と突出して多く、次いで「よく利用する店舗が還元事業の対象だから」が312人と続き、還元のお得さに加えてキャッシュレス導入店舗が拡大していることが伺える内容です。
一方で不満の理由として、「還元率や対象店舗がわかりにくいから」91人、「還元のタイミングや還元方法がバラバラだから」84人などが挙げられ、対象店舗や同事業の内容に対する理解度が満足度を左右する結果となりました。
この後の回答にもあるように、人々はポイントよりも利便性を重視しているからです。ポイントは普及のための話題作りと割り切り、どのような政策が人々の利便性を高めるのか、私たちの生活をより豊かにしてくれるのかを考えるステージに入るでしょう。
調査2:キャッシュレス・ポイント還元事業による決済影響と変化
キャッシュレス・ポイント還元事業が自身のキャッシュレス化にどの程度影響しましたかという調査に対し、同事業によって「キャッシュレス利用を始めた(新規)」と回答した人は約2割、「キャッシュレス利用が増えた(増加)」が約5割にのぼり、全体の7割のキャッシュレス化推進に寄与する結果となりました。
また、同事業の期間中における決済割合の変化を、開始時点(2019年10月)と終了時点(2020年6月見込)で比較したところ、「スマホ決済」の利用率は平均値で1.0割から1.9割に上昇、「クレジットカード」の利用率も0.3割の微増した一方、「現金」の利用率は4.6割から3.5割に減少したことが明らかになりました。
「キャッシュレス・ポイント還元事業」開始時点(2019年10月)の決済割合
決済方法 | 0割 | 1-3割 | 4-6割 | 7-9割 | 10割 | 平均 |
現金 | 1.8% | 36.8% | 31.6% | 28.4% | 1.4% | 4.6 |
クレジットカード | 13.3% | 51.6% | 23.5% | 10.5% | 1.1% | 3.1 |
デビットカード | 87.0% | 9.8% | 2.5% | 0.7% | 0.0% | 0.3 |
スマホ決済(コード型決済・非接触型) | 52.6% | 37.9% | 8.8% | 0.7% | 0.0% | 1.0 |
ICカード(非接触型) | 57.2% | 38.2% | 4.6% | 0.0% | 0.0% | 0.7 |
その他(金券・クオカード等) | 84.9% | 15.1% | 0.0% | 0.0% | 0.0% | 0.2 |
「キャッシュレス・ポイント還元事業」終了時点(2020年6月)の決済割合
決済方法 | 0割 | 1-3割 | 4-6割 | 7-9割 | 10割 | 平均 |
現金 | 2.8% | 55.4% | 28.4% | 13.0% | 0.4% | 3.5 |
クレジットカード | 12.6% | 44.9% | 27.0% | 14.8% | 0.7% | 3.4 |
デビットカード | 88.1% | 8.8% | 2.4% | 0.7% | 0.0% | 0.3 |
スマホ決済(コード型決済・非接触型) | 37.2% | 40.0% | 20.7% | 2.1% | 0.0% | 1.9 |
ICカード(非接触型) | 59.6% | 34.4% | 6.0% | 0.0% | 0.0% | 0.8 |
その他(金券・クオカード等) | 85.3% | 14.7% | 0.0% | 0.0% | 0.0% | 0.2 |
一方で、現金も健在であることが分かります。全体的には、少額でもキャッシュレス、という人が増えたことでキャッシュレス比率が高まっているのではないかと見ています。
調査3:キャッシュレス・ポイント還元事業終了後のキャッシュレス利用
キャッシュレス・ポイント還元事業終了後もキャッシュレスを利用しますかという調査に対し、「利用する」と回答した人は8割を占める結果となりました。
利用する理由として、「支払いがスムーズだから」が698人と突出し、次いで「使える店舗が多くて便利だから」が368人と続き、同事業の狙いである消費者の利便性向上が大きく支持された内容です。
一方で、利用しない(わからない)理由として、「ポイント還元が無いから」112人、「現金で支払いたいから」81人などが挙げられ、同事業終了でポイント還元の恩恵が無ければキャッシュレスを利用するメリットがないと感じる人もいるようです。
家族間や決済手段間での利用金額の統合、支出計画のアドバイス、他の金融サービスとの連携など付加サービスも有望です。
調査4:キャッシュレス・ポイント還元事業終了後の決済支持率
キャッシュレス・ポイント還元事業終了後(7月以降)にメインで利用する決済手段として、「クレジットカード」が40.3%と最も多い結果となりました。他、「スマホ決済」23.2%、「ICカード決済」6.3%を合わせると、およそ7割の人がキャッシュレス決済をメインで利用したいと回答し、「現金」は30.2%に留まりました。
以下、各決済方法を支持する声として、それぞれ一部ご紹介します。
現金派
クレジットカード派
スマホ決済派
ICカード決済派
キャッシュレスが浸透することで消費額が増えて借金が増えやすくなる、という構図は世界各地で見られます。計画的な消費を促す技術や金融教育が欠かせません。
調査5:キャッシュレス決済未対応で困る場所
キャッシュレス決済未対応で困る場所(キャッシュレス利用を希望する場所)については、「病院・医療施設(医療費 等)」が519人と最も多く、次いで「公共料金(コンビニ振込用紙払い)」が414人で続く結果となりました。高額な決済をする際に、クレジットカードをはじめとしたキャッシュレス決済が利用できないと不便に感じる人が多いようです。また、公共料金のコンビニ振込用紙払いに関しても提携クレジットカード以外では現金決済のみのため、キャッシュレス対応を要望する声が多くみられました。
コンビニ振込用紙払いやガソリンスタンドなどは顧客の囲い込みを優先させた結果、顧客の利便性を犠牲にしてしまっています。顧客の目線に立ったサービスの改善が望まれます。
調査6:マイナポイント事業についての認知度と利用意思
「マイナポイント事業(=マイナンバーカードを活用した消費活性化策)」の認知度について、半数以上の57.9%が「知らない」と回答しました。「内容まで知っている」は僅か10.5%と全体の1割であり、「聞いたことがある」は31.6%と認知度は4割に留まりました。また、マイナポイント事業を認知している人を対象に利用意思について調査したところ、「利用(予約)する」は47.5%、「利用(予約)しない」が52.5%と、意見が分かれる結果となりました。
ポイントのバラマキよりも、キャッシュレス支払いできる場所を増やしたりデジタル化を伴う利便性の向上を図ったりする政策の必要性が高いといえます。
監修者の総評
川野 祐司
キャッシュレス化で生み出されるデジタル支払いデータは、ビジネスだけでなく、福祉や社会政策でも力を発揮します。
一方で、欧米では、キャッシュレス化に対応できない人々が排除される金融疎外の懸念が高まっています。誰もが安心して、安全に使える決済手段をどのように提供するのか、幅広い人々が参加して議論する必要性も高まっています。
1976年生まれ、大分県出身。東洋大学経済学部教授、日本証券アナリスト協会認定アナリスト、国際貿易投資研究所客員研究員。専門は、金融政策、国際金融論、ヨーロッパ経済論。著書に『いちばんやさしいキャッシュレス決済の教本』(インプレス)、『キャッシュレス経済~21世紀の貨幣論~』(文眞堂)などがある。