iDeCoおすすめブームの中、個人年金保険の意義を考える

専業主婦や公務員でも加入できるようになったと言われる個人型確定拠出年金。

普及を目的として「iDeCo」という愛称までつけられました。

資金を積み立て運用し、公的年金を補完していく手段として期待されています。

一方で、従来から公的年金を補完するものとして、生命保険会社は個人年金保険を販売しています。

個人年金保険が置き去りにされたかのごとくの現状ですが、受給額が読める年金という点は、他の年金保険にない大きなメリットではないでしょうか。

個人年金保険の特徴

現役世代から高齢者に年金保険料を渡していく「賦課方式」の公的年金と違って、将来もらう年金額を決めて保険料を払っていくのが、スタンダードな個人年金保険(定額個人年金保険)です(変額保険や外貨建てになるものは異なります)。

将来資金を貯金していくような感じです。

生命保険には必ずしも保険金がもらえるとは限らない掛け捨て型の保険と、満期の保険が約束されている貯蓄型(積立型とも)の保険がありますが、個人年金保険は貯蓄型保険の一種にあたります。

基本的には支払った保険料以上の年金はもらえる契約になっています。老後にどの年齢で死亡するかによっては年金総額が変わりますが、年金年額(例えば年50万円などと)は契約時に決まるものです。

いわゆる公的年金はもらう時の経済状況・人口構成によってわかるので、もらう時にならないとわかりません。

元本割れする個人年金保険もある

ただし変額個人年金保険や外貨建て個人年金保険は元本割れのリスクもあるので注意が必要です。

これらは、投資の成果によって年金年額が変動するものです。外貨建ての場合は外貨建て(例えば年額3,000ドルなど)で年金額を契約しますので、円高が進むと元本割れになります。

変額個人年金保険の場合は、払込保険料分だけ保険金を最低保証する商品もありますが、元本割れのリスクがあります。

定額個人年金保険は、支払った保険料を責任準備金として積み立て、国債中心に運用しています。

これを外貨建て資産にも投資したものが外貨建て年金保険であり、さらに国内外の株式にも投資したものが変額保険となります。

個人型確定拠出年金(iDeCo)の特徴

保険料にあたる掛金を5,000円以上で決め(上限額あり)、投資商品は自分で選択します。

投資商品には元本確保型もあれば、投資信託のような元本保証されない商品もあります。

投資の成果によって積み立てた資産額は変動し、将来もらえる年金額は変わります。

元本確保型には、定期預金の他、年金払い積立傷害保険や上記の個人年金保険もあります。個人年金保険はiDeCoの商品の一種という関係になります。

国民年金保険料を納める第1号被保険者や、平成29年から加入対象者となった専業主婦(国民年金第3号被保険者)の手続きに比べると、第2号被保険者(厚生年金加入者)の手続きは会社の許可がいる、会社の退職金制度によっては加入できないなど、面倒な点もあります。

iDeCoも変額保険や外貨建て保険と同様、積み立てに回した掛金より受け取る年金額が下回る元本割れリスクが存在します。

元本確保型商品のみに投資すれば元本割れリスクは防げますが、低金利の状況下のため、インデックス型(日経平均指数連動型など)の投資信託などにも投資したほうがいいという意見もあります。

年金払い積立傷害保険の特徴

個人年金とよく似た年金型商品として、損害保険の年金払い積立傷害保険があります。

傷害保険ですので、保険期間中にケガや死亡した場合には、補償が受けられます。一方でケガも死亡も無く保険期間が過ぎた場合には、60歳・65歳などの開始年齢から年金(給付金)が受け取れます。

傷害保険と定額個人年金保険の両要素があわさったものです。

通常の傷害保険は掛け捨て型ですが、積立型の保険ですと満期に必ず保険金(原則として元本を上回る形で)が給付されます。

積立型と年金払いの特徴を生かし、個人年金の機能を持たせています。

個人年金の給付プラン:3つのタイプ

①確定年金

契約した開始年齢から決まった年数(5~15年程度)は確実にもらえます。つまり、死亡後も遺族が残りの年数だけもらえることになります。

②有期年金

契約した開始年齢から決まった年数(5~15年程度)だけ年金がもらえますが、死亡するとその後はもらえなくなります。3つのタイプでは一番もらい方が不利ですが、保険料が比較的安くなります。

ただし保証期間付有期年金もあり、確定年金と有期年金の性格を併せ持ったものになっています。

保証期間を過ぎると通常の有期年金と同じ扱いになりますが、保証期間中に亡くなった場合は、保証期間の残り(保証期間10年で4年経過後に死亡した場合は6年)だけ遺族が年金を受け取れます。

③終身年金

契約した開始年齢から死ぬまでもらえるのが、終身年金になります。公的年金に近い性格ですが、有期年金より保険料が高くなる傾向にあります。

こちらも保証期間付があり、保証期間を過ぎると終身年金と同じ扱いで、保証期間中に亡くなると、残りの期間だけ遺族が受け取れます。終身年金は、年金払い積立傷害保険にはありません。

個人年金・iDeCo等の税制を比較

iDeCoは税金対策に有利というメリットが強調されますが、個人年金保険・年金払い積立傷害保険・iDeCoの税制はそれぞれどのようになっているのでしょうか。

個人年金の保険料・掛金は全額所得控除ではない

個人年金保険に関しては、生命保険料控除のうち個人年金保険料控除に該当します。

これは上限があり、下記のような算式で控除額を計算しますので全額所得控除ではありません。

【表1 所得税の個人年金保険料控除額:平成23年以前の契約分】

年間支払保険料=A控除額
25,000円以下A
25,001円~50,000円A/2+12,500円
50,001円~100,000円A/4+25,000円
100,001円以上50,000円

【表2 住民税の個人年金保険料控除額:平成23年以前の契約分】

年間支払保険料=A控除額
15,000円以下A
15,001円~40,000円A/2+7,500円
40,001円~70,000円A/4+17,500円
70,001円以上35,000円

【表3 所得税の個人年金保険料控除額:平成24年以後の契約分】

年間支払保険料=A控除額
20,000円以下A
20,001円~40,000円A/2+10,000円
40,001円~80,000円A/4+20,000円
80,001円以上40,000円

【表4 住民税の個人年金保険料控除額:平成24年以後の契約分】

年間支払保険料=A控除額
12,000円以下A
12,001円~32,000円A/2+6,000円
32,001円~56,000円A/4+14,000円
56,001円以上28,000円

なお、個人年金保険でも下記の要件を満たして「税制適格特約」をつけないと、一般の生命保険料控除に該当しますので注意が必要です。

    ・年金受取人が被保険者
    ・保険料負担者が年金受取人もしくはその配偶者
    ・保険料払込期間が10年以上
    ・(確定年金・有期年金の場合は)開始年齢60歳以降で受取期間が10年以上

変額個人年金保険は、全て個人年金保険料控除ではなく一般の生命保険料控除の対象です。

年金払い積立傷害保険も、損害保険料ということもあり控除の対象外となっています。

ただし、平成18年以前契約で保険期間10年以上の場合は旧長期損害保険料に該当し、地震保険料控除の対象となります。

対してiDecoは小規模企業共済掛金等控除で、掛金上限はあるが全額所得控除になります。

掛金上限は、第1号被保険者:月68,000円、第3号被保険者:月23,000円、企業型確定拠出年金のある会社に勤めている会社員:月20,000円、公務員と企業型確定拠出年金のない会社に勤めている会社員:月12,000円です。

年金をもらったとき

iDecoから老後年金をもらった場合、「公的年金等に係る雑所得」に該当します。

公的年金と同じ扱いになるわけです。

いわゆる公的年金と合算し、【年金年額 ― 公的年金等控除額】で所得計算します。

「公的年金等控除額」は最低70万円(65歳未満)・120万円(65歳以上)はあるので、場合によっては所得額が0になることもなります。

個人年金や年金払い積立傷害保険をもらった場合は、「公的年金等に係る雑所得」ではなく「その他の雑所得」に該当します。

毎年の所得計算の仕方は、以下のようになります。

    個人年金年額 ― 個人年金年額/年金総額×総支払保険料

個人年金や年金払い積立傷害保険をもらった場合は、元本割れさえしなければ、所得は発生することになります。

年金総額の計算ですが、個人年金の種類ごとに下記のように異なります。

    ・確定年金:年金年額 × 給付期間(15年であれば15)
    ・終身年金:年金年額 × 平均余命(60歳からもらえて女性であれば27年、男性は21年)
    ・有期年金:上記2つの計算方法のうち小さい値
    ・保証期間付年金:年金年額 ×(保証期間・平均余命のうち大きい値)

確定年金・保証期間付年金を遺族がもらったとき

確定年金・保証期間付年金は、年金の給付期間(保証期間付年金の場合は保証期間)中に契約者が亡くなった場合は、遺族がもらうことができますが、単純に所得税がかかるだけでなく、死亡時に「年金受給権」に対して相続税の対象にもなります。

十分ある個人年金の価値

確定給付型の年金を個人で契約するのが個人年金となります。公的年金は保険料の上昇・年金受給額の抑制・支給開始年齢の上昇と先行きが暗い中、この意義は大きいと言えます。

iDeCoも積立型の年金ではありますが、投資の知識が無いと厳しく、また脱退一時金の支給要件など制度が複雑なため普及が進んでいません。

また未だ日本人には投資アレルギーが強く、安全資産志向が強いということもあります。

最も個人年金保険をめぐる環境も厳しく、平成29年4月には予定利率の見直しで、保険料増や給付額減などにより辺戻率(支払保険料総額に対する年金総額の割合)を低下させる保険会社も出ています。辺戻率110%台の保険も100%台ぐらいに落ち込む予定です。

しかし確実に元本を上回り、受取額が読める年金というのは、他の年金制度(商品)には無い特徴であり、iDeCoに入ろうブームの中でも一考に値すると考えます。

執筆者

石谷 彰彦
石谷 彰彦ファイナンシャルプランナー

保険代理店を兼ねる会計事務所に勤務し、税務にとどまらず保険・年金など幅広くマネーの知識を持つ必要性を感じファイナンシャル・プランナーの資格を取得。保険・年金・労務・税金関係を中心にライティングを行う。


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