悪生活習慣のあなたは保険料が倍になる?INSURTECHで細分化される生命保険料
一昔前は当然のように人間の力でやっていた仕事が、現在テクノロジーの力で対応できる世の中に変わり始めています。
1990年に世界中に浸透したインターネットの技術でその流れはいっそうスピード感を増し、さまざまなサービスが新しい技術を取り入れて革新的に変わっています。
人間顔負けの表情とボキャブラリーで会話するロボットは、AI(人工知能)という技術で動いています。また最近「人が運転しない自動車」がCMでも注目されていますが、IOT(Internet of things)という技術によるものです。
このテクノロジーの波は、生命保険や損害保険の世界にも大きな変革をもたらそうとしています。
近い将来、保険金を受け取るまでのスピードが急激に発展したり、あなたの健康状態や生活習慣次第で保険料が高額になったり、逆にとても安価になったりする可能性があるのです。
これらの動きは、INSURANCE(保険)とTechnology(テクノロジー)を組み合わせて、INSURTECH(インシュアテック)と呼ばれます。
INSURTECHはポストFintech?
INSURTECHの前に、Fintech(フィンテック)という言葉をお伝えします。
新聞やテレビなどで1度は耳にされたことがあるのではないでしょうか。
FintechはFinance(金融)とTechnology(科学技術)を合わせた造語で、決済サービスや会計業務、仮想通貨など金融をめぐるサービスおよび技術開発の総称として現在、流行ワードとして注目されています。
会計帳簿を自動化するクラウド会計ソフトや、銀行を介さない決済取引システムがFintechの代表格です。
アメリカやイギリスが先行していましたが、最近は日本でもFintech企業が存在感を示すようになってきました。
このなかでは以前から保険×テクノロジーの動きもFintechの一環として注目されていたのですが、最近は保険に対するテクノロジーの可能性がとても広いことから、次第に独立した動きとして認識され、INSURTECHという言葉が生まれていきました。
保険のアナログ部分を革新させるINSURTECH
それではINSURTECHとは、どのような動きを指すのでしょうか。
日本はとても「保険への信頼度が高い」といわれ、生命保険や損害保険は人々の生活に深く浸透しています。
その一方で、保険には書面上でのやり取りもまだ多く、とても「前時代的」なところも多数残っています。
最終的なユーザーである契約者や保険受取人にとって、労力を要する部分、時間がかかる部分も数多い。
このように保険を巡る煩雑な部分に対して、テクノロジーの力で、これらの部分に革新的なサービスを導入しよう、とするのがINSURTECHの基本の動きです。
では具体的に、INSURTECHによって変わる保険の姿を見ていきましょう。
自動車保険における「運転技術認識」が変わる
現在INSURTECHで最も進んでいるのは、自動車保険の分野です。
自動車保険の保険料は運転手に「等級」を設け、事故歴のない運転手は等級を安くしています。
ただ、等級だけではその運転手にどれだけ事故を避ける技術があるのか、そもそも事故が少ないだけで決して安全運転意識の高い運転手ではないのではないか、という指摘が以前よりありました。
そこで、自動車にデバイス(検査システム)を導入し、以下のような運転手の特徴を恒常的に調査することが行われ始めています。
- (法定速度に対して)平均どのくらいのスピードで走るか
- ブレーキを踏む回数、タイミングはどうか
- 前の車との車間距離や、一時停止後の再発進のタイミングはどうか
- 交通標識を認識するタイミングはどうか
これまで運転者を判断する基準を10として等級が決められていたものが、100や200といった判断基準が新しく設けられ、自動車保険の、特に保険料設定における在り方が大きく変わっていくのかもしれません。
そもそも数年後には、「等級」という制度が役目を終えている可能性が高いですね。
そもそも自動車は今後、急速に「自動運転技術」が導入されていくものと思います。
自動車の運転席に人がいなくなると、そもそも運転手の癖が関係なくなり、更に自動車保険の形が変わってくるといわれていますが、それはINSURTECHとは別の動き。
自動車保険を巡るテクノロジーの導入はINSURTECHの代表例として注目されていくでしょう。
家財保険もスマホで簡単手続きが可能に
INSURTECHの導入が始まっているのは自動車保険だけではありません。
家財保険においても、テクノロジーの力がそれまでの家財保険の形を大きく変えています。
家財保険とは、自宅や事務所内の家具や家財を対象とする保険です。
保険の対象とした家財が破損した場合、専門家が現場にて破損具合を確認し、認定された場合に保険金を支払う流れです。
「家財保険」という言葉ではあまり馴染みがないかもしれませんが、いわゆる損害保険の代表格である火災保険や地震保険のなかには、この家財保険が含まれています。
火災や地震によって、家財が損害を受けたとき、現在は以下の手続きによって保険金額が算出されます。
- 建築士や専門家が家財の破損状況を確認
- 保険会社設定の基準に合わせ保険金額の算出
- 契約者へ保険金額の通知
- 保険金の入金
この手続きはとても時間のかかるもの。
以前より「もっと手続きが簡単にならないものか」という指摘がありました。
これを可能にしたものが、INSURTECHにおける家財損害の確認です。
- 契約者が家財損害の状況を、スマートフォンで写真を撮る
- 撮った写真を保険会社に送る
- 保険会社で算定を行い、保険金の額を決定する
- 契約者へ保険金額の通知
- 入金
写真を撮って保険会社に送るまで、ほんの数分で完了させることも可能です。
この手続きが浸透するならば、家財保険は現在よりも契約者に近い、活用度合いの高い保険になるでしょう。
生命保険にもINSURTECHの波は押し寄せるか
それでは、保険のなかでも最大のニーズを持つ生命保険の分野では、INSURTECHの技術はどのように受け止められているのでしょうか。
生命保険×Technologyで最も導入が期待されているものが、「健康状態の把握」です。
一例としては保険加入者の腕にデバイスをつけて、血圧や静脈、心電図などを恒常的に測ります。
商品化されていないため期間は不明ですが、数週間の可能性も。
それをもとに健康状態を把握し、自動車保険と同じように保険料を細分化することができるというものです。
つまり、これまで自己申告に頼っていた契約者の状態を、正確かつ客観的に判断することができるというものです。
ただ、この生命保険に関しては強い反発もあります。
自動車の車内に計測機器を置くケースと異なり、「人」の腕から恒常的に計測するのを嫌がる人も多いでしょう。
脳疾患の可能性などは頭部に計測機器を置く必要がありますが、いわゆるヘッドギアのようなものに強い嫌悪感を持つ人も多いと予測されます。
こちらは数週間などつけられませんね。
病院での健康診断など一時的なものにするのか、AppleWatchのようなデザイン性の高いものにするのか、改善の余地が残りますが、生命保険にINSURTECHを導入するのは一段、敷居が高い、といえるのではないでしょうか。
ただ、INSURTECHが保険の世界に導入されると、現在ブラックボックスとなっている保険料の設定が個人個人の健康状態等に応じて明確になったり、時間のかかる保険金支払いまでの手続きが大幅に短くなることが予想されます。
東京オリンピックが開催される2020年前後までは、INSURTECHは保険の世界に、自然に浸透しているのかもしれません。
長期的な視野を持つと、保険料の算定において、また保険金の支給手続きにおいて、まだ前時代的な動きの目立つ点は生命保険も損害保険も同じです。
健康状態の確認に限らず、現在の懸念事項を解決するサービスが誕生すると、一気呵成にINSURTECHが浸透すると考えられています。
それは、既存の保険会社ではなく、高品質の技術を有した新規参入型のテクノロジー企業が担い手になるのではないかと予測します。
まとめ
以上、保険の世界に大きな変革をもたらすINSURTECHについてお伝えしました。
まだまだ浸透していない言葉ですが、今後さまざまなサービスが開発され、いわゆる保険契約者にも急速に広がっていくものと考えられます。
INSURTECHの浸透によって、いわゆる保険のエンドユーザーの満足度が高まることに期待したいものです。
執筆者
工藤 崇株式会社FP-MYS代表取締役社長兼CEO
ファイナンシャルプランニング(FP)を通じて、Fintech領域のリテラシーを上げたいとお考えの個人、FP領域を活用して、Fintechビジネスを開始、発展させたいとする法人のアドバイザーやプロダクトの受注を請け負っている。Fintechベンチャー集積拠点Finolab(フィノラボ)入居企業。FP関連の執筆実績多数。東京都千代田区丸の内。