経済から振り返る平成30年間

新元号「令和」移行(改元)について、大型連休中の市場閉鎖、小売店の売上減少、レジャー需要増等の短期的影響が幾つか指摘されている。

昭和から平成に移ってからの30年間を経済的側面から見ると、高度経済成長期の昭和に比べ、バブル崩壊後の政策対応遅れとデフレによる個人所得増加率の低迷や、少子・高齢化進行(総人口減少傾向)による需要減少・労働不足等が顕在化し、将来に向けて経済的課題が多く浮き彫りにされた厳しい苦悩の時代だったと言えよう。

この、バブル崩壊に始まってアベノミクス~消費増税に続く平成30年間の経済について、主な経済トピックを参照しながら簡単に振り返ってみたい。

1. 日経平均最高値とバブル崩壊

バブルの絶頂と平成元年

バブルの頂点と言われた平成元年だが、昭和63年内の昭和天皇不例からの自粛ムード高まり、前年の忘年会自粛などで経済活動全般は半年程度低調であった反動で株価等が過度に上昇した側面も背景にあった。

勿論、1987年から90年(昭和の終わりから平成元年)まで、株式・不動産市場、企業投資、家計等の金融活動指標等【日銀「ヒートマップ」は2012年から公表開始。「金融システムレポート2018年10月」を参照】は大半が過熱状況を示していた。こうしたことから、株価等のバブル崩壊自体は一部で予測されていた。
だが、その後の展開(長期間のデフレ等)については、大方の予想を超えた。

平成経済年表

年度平成の主要経済トピック経常利益
(東証1部)
平成消費税導入(3%)
日経平均最高値(38,915円)
約5兆円
2バブル崩壊(日経平均4割下落)
3大手証券会社の損失補償
4日経平均15,000円割れ約10兆円
7阪神淡路大震災
住専処理に公的資金
約15兆円
9消費税増税(5%)
山一証券・北海道拓殖銀行の破綻
10大手銀行21行に公的資金注入(長銀・債銀破綻)
11日銀ゼロ金利政策導入
15日経平均バブル崩壊後最安値(7,607円)約20兆円
19郵政民営化約35兆円
20リーマンショック
世界金融危機
約15兆円
22中国のGDPが世界2位約26兆円
23東日本大震災 福島原発事故約15兆円
24アベノミクス開始
25日銀異次元緩和政策開始
26消費税増税(8%)約20兆円
28日銀マイナス金利導入
29有効求人倍率がバブル期を超える37.9兆円
30日経平均バブル後最高値38.6兆円(予想)
令和元31消費税増税(10%)予定
年号を令和に改元

※上場企業の経常利益は金融を除いたもの

金融危機とゼロ金利(超低金利)時代

平成元年に起こったバブル崩壊だが、株価や不動産価格はいずれ戻るだろうという事態の過小評価が続き、銀行等の不良債権も認知・規模把握が遅れ、損失確定や対応策(公的資金投入等)実施が大蔵省(現財務省)や金融界の反対によりタイミングを逸し、従来型の金融政策(利下げ・公共事業等)での対応となって、債務・設備・雇用過剰が経済悪化につながり金融危機が深刻になったのは、平成9年(1997)秋の山一證券等の破綻の頃と考えられている。これには消費税増税(2%増)、社会保険料増の国民負担増も重なり、雇用情勢も深刻化したため日本経済は長期低迷時期に入った。

ただ、同時期にアジア通貨危機から始まった世界金融危機により日本の金融政策等の失敗は要因としてはさほど表面化せず、緊急課題である不良債権処理に焦点が当たっていた。

だが振り返ってみれば、その後の日本経済低迷長期化の要因は、金融政策等の対応遅れと不完全さが問題だったと指摘されている。これは公的資金投入についての世論の反発や制度不備など複合的な理由によるものだが、結果として適切なタイミングを失し、金融庁の発足から小泉政権による不良債権処理のおおむね完了(21行の大手銀行が3メガバンクを含む4グループに統合)まで、10年以上の時日を要した。

2. デフレ長期化と大規模災害・復興経済の影響

デフレ継続と失われた20年

平成12年に、統計開始来初めてマイナスになった消費者物価は、その後平成20年と消費税増税時を除き、マイナス又は1%小幅上昇となり、日本経済はデフレ時代に突入した。

平成はデフレ経済の時代として記憶されるだろう。
デフレに対し、日銀は一貫して金融緩和によるデフレ脱却を目指したが、その効果は少なく、平成時代の終わりまで続くデフレとなった。
だが、インフレの続いた戦後の昭和時代を経験した世代にとっては、生活実感としてデフレに不安感はなく、その後の雇用情勢(不正規雇用の増加、賃金水準の低迷)の悪化が具体化するまで、むしろ物価の低位安定自体は一般に歓迎されていた。

大規模自然災害と復興経済

一方、自然災害の頻発もまた平成を代表するものだ。
阪神淡路大震災以降、東日本大震災以外にも北海道や西日本に大規模地震が多発し前例のない大規模豪雨災害も含めると、昭和には想定のない大きな自然災害被害の一方で、災害復興に関連する公共事業等の復興需要が一貫して継続し、内需を下支えした。

反面、国の財政は悪化し国債発行残高が増え続け、災害復興の前にプライマリーバランス達成先送りもやむなしという声が強く、赤字国債の引き受け主体が国内(個人資産、機関投資家等)であることから、低コストの赤字国債消化が現在まで継続したことも、平成経済を象徴する一面だろう。

3. アベノミクスと異次元緩和

円高から円安、世界的な金融緩和

一方、世界的な金融緩和の流れの中で比較安定度の観点から、リーマンショック以降は一貫して円高傾向となり、1ドル80円を下回る円高傾向が続いた。
だが、同時にサブプライムローン危機は世界中の多くの金融機関の経営を揺るがしたが、金利低下と各国中央銀行による大規模な金融支援(流動性の確保等)によって、世界経済は落ち着きを一応取り戻した。

アベノミクスの登場

その後、平成24年に政権に返り咲いた自民党の第二次安部内閣は、のちにアベノミクスと呼ばれる「3本の矢」政策を打ち出した。
その中でも「大胆な金融政策」は、政権発足前の公約であり、これを織り込む形で急激な円安(ドル高)が進行した。

そして、翌年3月に日銀総裁に就任した黒田総裁は、2年間で物価上昇率2%達成を目標とするマネタリーベース(日銀供給資金量)を倍にするという大幅な量的緩和政策を実施し、マネタリーベースは150兆円から460兆円まで増加した。(アベノミクスの三本の矢のうち、機動的な財政政策は一応の成果を得たが、三本目の構造改革による民間企業等の成長戦略については不完全で、第2ステージに移ったと言われるアベノミクス総体は、経済面からの評価が限定的だ)

4. 第四次産業革命とグローバル経済環境の変化

IT社会を作る、第四次産業革命の技術

ダボス会議(世界経済フォーラム)創設者であるクラウス・シュワブが「第二の機械時代」とも呼んで認知が一気に広がった「モノのインターネット化」が代表する第四次産業革命の概念は、AIやロボット、ナノテクなど多くの技術分野における新たな技術革新が特徴となっている。これは、現在進行中の経済革命だろう。

平成に本格的普及したインターネット・ウェブ利用

この技術革新は、インターネットを活用した社会構造の変化でもあった。
インターネット技術はISP(インターネットサービスプロバイダ)の拡がりとWWW(ワールドワイドウェブ)が、平成時代の初めのころ急速に世界的に浸透し、経済にとっても現在は不可欠の技術要素となっている。
特に、スマートフォンの普及には、インターネット利用が前提だったが、この社会全般にわたったネット利用の急速な普及スピードは、昭和の時代には、ほとんど想定されていなかった。

これからの令和時代には、インターネット利用がさらに広範に普及・発展し、社会経済構造まで大きく変革すると思われる第四次産業革命だが、その基盤形成と社会変革のスタートは平成時代だった。
世界経済に不覚的要素が増え続けるこの頃だが、新しい時代に第四次産業革命関連の経済的発展が生まれることは確実だろう。

5. 課題山積の平成(デフレ、エネルギー問題、少子化、財政悪化)

平成の日本経済の課題は、デフレ継続だけではなかった。
異次元緩和と関連して膨大な財政赤字が次世代の大きな負担として指摘されている。

また、自然災害の多発と浮き彫りにされ始めた昭和時代建設のインフラ老朽化、そして少子化・人手不足による産業界のコスト増加や消費低迷、原発停止に伴うエネルギー問題など未解決の課題は今後の日本経済にとって大きな要素となる。
特に少子化については、平成元年に合計特殊出生率が昭和時代の最低(丙午の年)をしたまわる1.57となったことから、平成時代を象徴する出来事として経済的にもバブル崩壊や異次元緩和に匹敵する大きなトピックであった。これは令和経済にとっても大きな課題だろう。

また国外でも、米トランプ政権の保護主義に代表される反グローバリゼーションの動きが世界経済にとって無視できない動きとなり、中国の経済低迷、貿易活動の沈滞による自動車等の輸出企業への悪影響などが心配だが、現時点では不透明な要素が多い。

6. 課題先進国日本が取り組む、新しい経済の形

これらの課題克服に向けて、日本経済はすでにいくつかの取り組みを始めている。その中でも、米国は参加していないが、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)は最終的に日本が主導して成立し、国際的な自由貿易経済にも大きな意味がある。

平成30年に発効したEUとの経済協定(EPA)も含め、日本がグローバルな自由貿易推進の姿勢は、平成時代の大きな成果と言えよう。

また、早くから少子高齢化問題が課題として意識された日本では、社会保障・介護と高度医療を中心とした高齢化ビジネスがスタートし、急増が予想される社会保障費用の負担が日本経済にとって過重な負担にならない限り、欧米や中国でも深刻化するこれからの高齢化時代のモデルとなりうる可能性を持っている。

さらに、多額の財政赤字・国債償還についても、安定的な経常収支黒字化により対外的には純債権国であり、日銀が国債発行額の5割近くまで保有しているので高齢者の金融資産が急速に減少しない限り、先送りを続けているプライマリーバランスの正常化が仮に達成出来れば大きな問題にはならないと考えられている。

平成経済年表に示したように、上場企業の経常利益水準は、バブル期や過去最高水準だったリーマンショック前の水準を大きく上回り、29年度、30年度(見込額)は40兆円レベルに達しており、株価水準はバブル期の6割程度の戻り高値ではあっても、企業の体力・稼ぐ力は平成の最後に向けて一時的な増減はあるが上昇傾向を保っている。

一方で、急速な人口減少・人手不足が労働・サービスのロボット化、自動運転等の自動化進展圧力として先進的な取り組みが始まれば、令和の時代は他国に先駆けて日本経済が先導する可能性があるかも知れない。

経済成長率の増加と構造改革

平成時代の名目経済成長率は、初めの20年間はIMF(国際通貨基金)のデータでは加盟約200国中最低で、その後も異次元緩和によるマネー供給量の増加にもかかわらず、下位1割の範囲内だ。

規模が大きな日本経済の成長率を上げるのは容易ではないが、デフレ・賃金停滞の平成時代から脱して、所得の増加を図ることが令和時代の課題であり、そのためには、アベノミクスでは未達の第3の矢に関した「構造改革」、特に既得権で保護された経済的に効率の悪い規制の撤廃が必要だろう。
例えば一部で始まっている農業分野での参入規制緩和や、外国人雇用拡大、成長性の低い既存業態・企業への補助金削減などは、AI・ロボット推進を含む産業の構造改革と併せ、引き続き推進すべきだろう。

円高への対応

日銀が公表している実効為替レートに比べて、2000年以降は円安水準が続き拡大傾向にある。財政赤字や投機筋も含め実に多くの要因があり、円価格の動向は見極めにくいが、令和時代には円高が長期間続く可能性も十分ある。

円高局面は輸出産業のウェイトが大きい日本経済にとって当面のマイナス要因だが、外国人雇用拡大(労働力供給・人件費率低下)や海外投資特に新興国等へのインフラ投資などに大きく寄与することになる。

さらに、原材料等のコスト減と構造改革で輸出産業が収益体質に変わった過去の例もあり、長期的には前述した課題解決も含め円高を克服できる可能性もある。
逆の場合、例えば財政破綻による超円安と極端なインフレ不況のシナリオに比較すれば、長期的には解決可能な課題だろう。

予測される経済不安要素を克服し、外部環境に左右されにくい強固な経済実態を構築しない限り、令和の日本経済は平成以上に厳しい時代になりかねない。

保護貿易に立ち向かう日本主導のグローバリズム

米トランプ政権の保護主義的政策に対し、日本はTPPやEPA、RCEP(アジア地域包括経済連携)において、現在主導的な役割を示し、自由貿易・グローバリズム推進の立場に立っている。
日本だけではなく、世界経済にとっても自由貿易が長期的には合理的で経済圏の拡大・発展に重要である。
令和の日本が、急成長が予測されているインド経済との連携等も含め、真の意味でのグローバリズム推進と先進的な課題解決国になることを望んでいる。

執筆者

和気 厚至
和気 厚至

慶應義塾大学卒業後、損害共済・民間損保で長年勤務し、資金運用担当者や決済責任者等で10年以上数百億円に及ぶ法人資産の単独資金運用(最終決裁)等を行っていた。現在は、ゲームシナリオ作成や、生命科学研究、バンド活動、天体観測、登山等の趣味を行いつつ、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れた株式・為替・債券・仮想通貨等での資産運用を行い、日々実益を出している。


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