自然災害で住宅が被災したらどうなる?保険で補償される範囲とは
地球温暖化の影響なのか、各地で自然災害が起きています。大雨とそれによる河川の氾濫や土砂崩れ、地震など大規模災害になることも多く、決して他人事ではすまされません。
人命が第一なのは言うまでもありませんが、住宅が被災した場合の影響の大きさは、その後の暮らしを左右します。自然災害への備えは水や食料だけではなく、保険についても平時から考えておきたいものです。
今回は、自然災害で住宅が被災した場合の、保険で補償される範囲についてお伝えします。
目次
住宅を補償するのは「火災保険」
住まいが持家・賃貸に関わらず、火災保険には加入していることでしょう。
火災保険は火災だけではなく、台風や洪水などの自然災害の被害も補償する保険で、建物と家財に分けて契約するのが特徴です。
火災保険の種類によって、補償範囲は異なることに注意が必要です。火災保険の証券を確認してみましょう。
火災保険の種類と補償範囲
補償対象になる災害など | 住宅火災保険 | 住宅総合保険 |
火災、落雷、破裂・爆発 | 〇 | 〇 |
風災、ひょう災、雪災 | 〇 | 〇 |
水災 | 〇 | |
外部からの物体の落下、飛来、衝突 | 〇 | |
給排水設備の事故による水漏れ | 〇 | |
騒じょうなどによる暴行、破壊行為 | 〇 | |
盗難 | 〇 |
被災して火災保険の対象になると、保険金を受取ることになりますが、保険金には「損害保険金」と「費用保険金」の2種類があります。「損害保険金」は、上記のような災害などで被害があった場合、一定金額の保険金が支払われます。
損害保険金の例
補償対象になる災害など | 例 |
火災、落雷、破裂・爆発 | 火災で住宅が消失、ガス漏れ、落雷での損害 |
風災、ひょう災、雪災 | 台風や大雪などでの窓の破損や屋根の損害 |
水災 | 豪雨・洪水での浸水、土砂崩れで家が流される |
外部からの物体の落下、飛来、衝突 | 自動車、石、看板などが飛んできた |
給排水設備の事故による水漏れ | 住宅の給排水設備の事故 |
騒じょうなどによる暴行、破壊行為 | デモ、暴力、破壊行為 |
盗難 | 空き巣などの被害も補償 |
「費用保険金」は、損害に伴って発生する費用を補償します。
費用保険金の例
費用保険の種類 | 例 |
残存物取り片付け費用保険金 | もえくずなどの残存物の片付け |
損害防止費用保険金 | 損害の発生や拡大防止に使った消火器など |
臨時費用保険金 | 損害保険金が支払われる時の上乗せ |
地震火災費用保険金 | 地震による火災 |
水災の補償について最近注目されていますが、補償されるのは住宅が30%以上の損害を受けた場合に、実損額の70%が限度となっているケースが多いことに注意が必要です。
ただし、損害を受けた金額がそのまま補償金額になる、実損払いのタイプもあります。河川の近くに住まいがあるなど、地域によっては補償内容を手厚くしておくと安心です。
保険金額の決まり方
保険金額は、基本的に「再調達価額」で契約します。再調達価額とは、もう一度同じ建物を建築できる金額、または家財を取得できる金額です。
再調達価額から、時間経過による消耗分を差し引いた金額を保険金額にする保険もありますが、実際に住宅が被災して住むところが無くなってしまったら、新しい住宅が必要になります。建て替えに必要な費用を全てまかなえるよう、保険金は再調達価額での設定がお勧めです。
また、家財の保険金額は、世帯主の年齢や家族構成によって目安となる金額が保険会社で設定されています。しかし、必ずしも目安通りにしなくてもよいので、保有している家財を確認して契約しておきましょう。ただし、現金や30万円を超える貴金属、絵画、美術品は補償の対象外です。
ローンが残っていた場合は「自然災害債務整理ガイドライン」
被災して住宅を失っても、ローンは金融機関との契約なので債務が無くなるわけではありません。
しかし、2016年4月1日から「自然災害債務整理ガイドライン」の運用が開始されました。これにより2015年9月以降に発生した、災害救助法適用の災害の被災者の債務整理に一定の救済措置が取られるようになっています。
自然災害の影響によって、住宅ローンを借りている個人が、そのままローンを抱えていては再スタートしたくても困難が大きすぎてしまいます。
「自然災害債務整理ガイドライン」は、一定の要件を満たした債務者(=ローンが完済していない人)であれば、債権者(=銀行などの金融機関)との合意に基づいて債務整理ができるというものです。つまり、住宅ローンなどの免除や減額を申し出ることができるのです。
対象は、災害救助法の適用を受けた自然災害の影響を受けたことによって、住宅ローン、住宅のリフォームローン、事業性ローン等の債務を支払えなくなった個人で、破産手続きなどの法的倒産手続きの要件に該当した場合です。
この債務整理は法的な倒産手続きとは異なるので、いわゆるブラックにはなりません。その後に新たな借り入れを希望した場合にも影響されないということです。
手続きは、ローンを借りている金融機関に行くところから始まります。
手続きの流れ
- 最も多額のローンを借り入れている金融機関へ、「自然災害債務整理ガイドライン」の手続きをすることを申し出ます。その際、金融機関からは借入先、借入残高、年収、資産(預金など)の状況を聞かれます。
- 金融機関から手続きをすることに同意が得られたら、地元弁護士会などを通じて「自然災害被災者債務整理ガイドライン」運営機関に対し、「登録支援専門家(=弁護士が多い)」による手続支援を依頼します。
- 金融機関に債務整理を申し出て、申出書のほか財産目録などの必要書類を提出します。債務整理の申出後は、債務の返済や督促は一時停止となります。
- 「登録支援専門家」の支援を受けながら、金融機関との協議によって、債務整理の内容を盛り込んだ書類(「調停条項案」)を作成します。
- 「登録支援専門家」を経由して、金融機関等へガイドラインに適合する「調停条項案」を提出・説明します(金融機関等は1カ月以内に同意するか否か回答します)。
- 債務整理の対象にしようとする全ての借入先から同意が得られた場合、簡易裁判所へ特定調停を申し立てます。
- 特定調停手続により調停条項が確定すれば債務整理成立です。
災害救助法の適用になった災害は、内閣府の防災情報のページでも確認ができます。最近のものでは、2018年7月の豪雨災害があります。適用市域は11府県62市38町4村に及びました。
甚大な被害から再スタートをするために、このような制度があることをぜひ覚えておいていただきたいと思います。
その他の公的な支援制度
他にも知っておきたい公的な支援制度があります。
「被災者生活再建支援制度」
- 自然災害で、1市町村で10世帯以上の住宅が全壊した災害などが対象となります。
- 住宅が全壊した
- 住宅が半壊、または敷地に被害があり、やむを得ず住宅を解体した
- 災害により危険な状態が継続し、住宅に居住できない状態が長期間継続している
- 住宅が半壊し、大規模な補修を行わなければ居住できない
対象になる被災世帯は、
ただし、被災時に居住している世帯が対象なので、空き家、別荘などは対象外です。
基礎給付
住宅の被害の程度 | 全壊 | 大規模半壊 |
支給額 | 100万円 | 50万円 |
加算支援金
住宅の再建方法 | 建設・購入 | 補修 | 賃貸 |
支給額 | 200万円 | 100万円 | 50万円 |
「災害弔慰金」
自然災害で1市町村において住居が5世帯以上滅失した災害などが対象です。
災害によって死亡された方の遺族が受取れます。
支給額は、死亡した方が生計維持者の場合は500万円、その他の方の場合は250万円が上限です。
「災害援護資金」
自然災害で都道府県において災害救助法が適用された市町村が1以上ある場合が対象です。生活の再建に必要な資金を貸し付ける制度です。貸付限度額は350万円、利率は年3%、据え置き期間は3年以内、償還期間は10年です。また、貸付を受ける世帯には所得制限があります。
所得制限
世帯人数 | 市町村民税における前年の総所得金額 |
1人 | 220万円 |
2人 | 430万円 |
3人 | 620万円 |
4人 | 730万円 |
5人以上 | 1人増すごとに730万円に30万円を加えた額。 ただし、住居が滅失した場合は1,270万円とします。 |
自然災害は、いつ起きても不思議ではありません。
しかし、被災しても火災保険などの自助努力と、公的な制度の活用で生活再建をしていくことが可能です。そのためにも、まずは命を守る行動をとっていただきたいと思います。
執筆者
タケイ啓子
ファイナンシャルプランナー(AFP)。36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をし、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。約3,000件の相談をつとめたが、43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は相談、執筆業務を中心に活動中。