マネーフォワードが示す家計フィンテックと「お金の未来」
金融界におけるフィンテック革命が急速に進み、今後は送金や個人資産管理等の家計分野にも波及してゆくと思われる。
『お金を前へ。人生をもっと前へ』 というミッションの実現へ向け、目まぐるしいフィンテック革命の中で今後どのような事業展開をしていくのか、筆者は多くの期待と興味を持っていた。
そこで今回、株式会社マネーフォワード共同創業者である瀧俊雄氏とのインタビューでお聞きした同社が目指す新しい金融の姿や家計におけるフィンテックの活用等について紹介したい。
目次
家計へのフィンテック活用
出典:マネーフォワード
日本におけるフィンテック革命は、家計分野にも普及しそうだ。
細かい記帳や収支の分析が、スマホアプリによって家計を「見える化(可視化)」できるようになり、手軽に送金や資金振替、保有資産の管理等を含む総合金融サービスにアクセスできるというメリットが、理解され始めた。
この家計分野でのフィンテック活用において最先端を走る家計簿アプリ「マネーフォワード」を提供する株式会社マネーフォワードの事業が金融分野でどのように飛躍するのか注目されている。
マネーフォワード社の事業展開と個人資産管理
出典:マネーフォワード
今回のインタビューで、個人の資産形成とマネーフォワードの果たす役割について、瀧氏は 「今の日本経済は、高齢化により資産の『アキュミュレーション(蓄積)』から『デキュミュレーション(計画性のある取り崩し)』へとその重点が移りつつあります。高齢の方の中には年金受給額の範囲内で生活し、保有資産を維持し続けたいという意向が強い方もいらっしゃいますが、本当は緩やかな取り崩しこそが望ましい方々も多い。そのような時代を見据えて人生の各ステージで必要な費用と、現時点での備えの過不足から収支の計画を立てる重要性を、マネーフォワードで明らかにして行きたい」 と述べた。
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潜在的な利用ターゲットは幅広い
今後の事業展開等について、「現在のマネーフォワードアプリ利用年齢の中心は、30~40代だが、今後はシニア層にも利用者を広げてゆきたい」と瀧氏は語る。
確かに、フィンテック革命が進む中で、シニア層にこそきめ細かい家計管理と資産維持の重要性がこれから一層増すのではないかと思われる。
そこで特に関心が高い保有資産価値の維持と投資に関して、マネーフォワードの事業展開の考え方を伺った。
家計・資産管理と資産価資産形成支援について
家計簿アプリ マネーフォワードの結果を利用して、個人の資産管理だけではなく、投資を含む資産の増加や資産形成につなげるようなサポートはできませんか?(例えば、家計状況や資産状況を把握できるマネーフォワードアプリによって個人の投資に向ける割合を拡大できないか)
個人の投資に向けたマネーフォワードの機能は、資産の現状を正しく把握し、将来を予測することに強みがあると考えています。
個人資産のうち、投資等への資金の流れが見えれば、効果的な投資(資金配分・期間利回り設定等)が出来るかもしれません。ただ、現時点ではそれらすべてをアプリで完結することには至っていません。
ライフプランニングと呼ばれる、『人生の各ステージでどのくらいのお金が必要か』という点については、ウェブ版マネーフォワードにある『分析』メニュー内に将来のシミュレーション、例えば「子供さんが全員海外留学するとどのような影響があるか」といった試算機能があります。
将来にわたるすべての要素をアプリやAIが指し示すことは、少なくとも現時点ではできません。また、意思決定に要する情報も幅広いです。そのため、アプリ等はそれぞれのユーザーの状況を(正確にリアルタイムで)把握するという機能の出発点として考えながら、具体的な運用は人間にも相談する、例えば投資運用等が必要な場合にはFP(フィナンシャル・プランナー)に聞かれるような意思決定方が良いかもしれません。
資産運用のサポートについて
マネーフォワードが資産を増やすための指針やデータ等を、利用者へ提供するお考えはないのですか。
投資には様々な目的がありえますが、積極的に増やすための運用というよりは、まずは安心して暮らせる計画を立て、そのための資産を保全できる『安心の第一歩』として資産管理を考えて頂くことが良いのではないかと考えています。
当社も将来的には、資産管理等に役立つ分析ツールの提供等もありうると思いますが、その手前で、多くの方々が『老後の生活は年金の範囲内で暮らす』と考えている中、どのような支出水準が適切なのか、といった質問に答えていくことが、とりわけシニア層にとっては重要でしょう。
投資信託等のファンドには、ターゲットイヤーファンド(例えば『2040年引退者向けファンド』のような、ライフステージに合わせて投資資金の範囲を株式から債券に移して次第にリスクを減らすファンド)のようなものもあります。
自己責任で投資方針を作るよりは、目的に応じて適切なファンドを選ぶことが現実的と考えられます。
一度設定した投資資産構成を変更するのは(人間は忘れがちなので)結構面倒です。資産配分方針として、どのように(リスクや償還時点等別の)資産割合決定(ポートフォリオ)することが、資産運用の95%だと考えています。
定食屋さんでメニューを選ぶ様に、いくつかの投資対象となるファンドメニューの中から選ぶという方法が良いのではないでしょうか。
将来の資産価値把握はどのようにするのか?
将来不安として、不動産価値の把握などわからない点も多く、そんなコンサルタント機能をマネーフォワードに期待する投資家も多いと思いますが。
資産価値についてはアプリにある程度の機能はありますが、現在価値に加え、資産の見直し(例えば大きすぎる家の見直しなど)を行うことが大切でしょう。
見直しのきっかけ、方向性を考えるサポートがマネーフォワードの役目なのだと思っています。(答えを出すよりは、克服すべき課題、問題点を『家計の見える化』により明らかにする役割)
キャッシュレス化について
日本のキャッシュレス化もフィンテックにより加速しそうだ。
平成26年に閣議決定された「日本再興戦略」では「2020年オリンピック・パラリンピック東京大会を目途に、キャッシュレス決済の普及による決済の利便性・効率性向上の対応策をとりまとめる」とされている。
現金取扱い業務や引き出しの手間削減、取引決済の安全性向上、そして要介護高齢者等の現金管理における利便性向上要請が背景にあり、さらに行政事務の効率化や決済(ビッグ)データ活用等のフィンテック利用で幅広い分野の様々な相乗効果が期待される。
具体例では、海外発行クレジットカード等も利用可能なATM(主要コンビニATM等)普及や、公共交通・飲食店・地方商店街や観光地等のクレジットカード対応促進、公的納付金の電子納付の普及等を目指している。(「日本再興戦略」改訂より)
このキャッシュレス化について、瀧氏は「おにぎりやティッシュ購入は全て物品販売という区分だが、物品やサービス購入に関する支出が全て電子レシート化出来れば、個人消費の家計管理が出来ると同時に、お店側でもよりきめ細かいサービスが可能になるメリットがあります」と述べ、「商品支出等に関する情報が(現金支出では)把握困難で、情報が活かされないのが勿体無い」と話す。
キャッシュレスの進展とフィンテック
これからのキャッシュレス進展とフィンテック利用拡大について、他のインタビュー等でお話しされていましたが、この二つはどのように結びつくのでしょうか?
キャッシュレス進展と言っても、現金の利用範囲や利便性も考えると、すべての人が一斉にキャッシュレスに移行しない限り、移行には難しい部分が残るでしょう。
しかし、最近調査していた中で、例えばヘルパーさんに買い物等をお願いしている認知症の方のお金の管理について、支出を全て『nanaco(電子マネー)』払いにしていたケースがありました。
ヘルパーさんが現金を預かる必要もなく、お金の管理にレシート保管や集計が不要で、利用されるお店も限定でき、支払額や明細がはっきりして、介護を受ける方の周囲でもお金に関して疑心暗鬼になることもありません。データを活用することによる管理の負荷軽減の側面は見逃せません。
また、人は平均で月に2~3回ATMに行くと言われますが、その往復や待ち時間の無駄解消や、手元に現金が無い場合の割り勘・貸し借り等の煩雑さも避けられるメリットがあります。
個人間取引の支援
マネーフォワードさんには、メルカリなどで始まったP2Pの取引などについても、新しい方向からの関与を期待しているのですが、例えば、口座連携の状況によって『マネーフォワード・ポイント』の発行のような形で、個人間取引を進めるお考えはありませんか?
お財布の中に新しいカードやポイントをもう1枚増やすことで生活が便利になるとは思えません。
日本では、既にsuica等の非接触型ICカードの普及、インフラ整備が進んでいるので、これらの活用拡大が良いでしょう。
既存のプラットフォームに利便性の高い機能を新たに追加する方向が、(利用者にとっても)望ましいのではないかと考えています。
関連して、瀧氏は経済産業省サイト「METI Journal」でも下記のように述べている。
「日本では決済ネットワークは完備し、融資も相対的に受けることができる。ベンチャーキャピタルも次々とできており、決済や融資の領域で不満や不便が大きくない。それでは何が必要となるのか。
私は将来不安へのソリューションが中心に来ると思っている。政府の債務残高が積み上がり、年金など社会保障システムへの不安が高まる中で、個人や経営者としてどう振る舞えばいいのか。
まず現状を認識できるようにして、将来安心できるようなソリューションを示す。そうして皆が安心して働き続けることができるように後押ししてあげることが、国を挙げてフィンテックを普及する意義ではないか」
ブロックチェーンの利用について
マネーフォワード社のブロックチェーン技術を活用した事業への進出可能性についてもお聞きした。
(新たなプラットフォーム作成の観点で)「マネーフォワードの口座情報を預けるというアプリへの信頼自体を、信用という形で価値に変える、例えばマネーフォワードコインを独自に発行する等の可能性はありませんか?
新しい仮想通貨のサービスよりも、日本では電子マネーでできることをもっと進められるのではないかと考えています。
既に存在している、LINEペイやペイモ等のサービスの普及効果は侮れません。
ブロックチェーンも手段として効果的であれば利用されると思います。
マネーフォワードの独自コイン発行という考えは、知的課題としては面白いですね。
ただ、日本銀行の銀行券(=円)もそうですが、(通貨などが)何を負債としているかが問題です。
例えば株式は将来配当の現在価値の源泉でもあるわけです。マネーフォワードコインを発行するとしても、何が裏付けとなるのか。広範に理解される信用のありかを考えると「ベンチャー企業が発行した独自コイン」よりも「円」の方が信用もあり、より現実的でしょう。
VR、仮想現実内に限定した仮想通貨の価値なら成立しやすいのですが、現実の便利さや有用性を通貨の担保に出来るかは、まだ具体的な事例があるわけではありません。
ただ、例えば高齢者向けにマネーフォワードが自社ポイントで、将来優良な介護ホームに入る権利などを手配できるようなシステムがあれば、それには需要がでるかもしれません。
マネーフォワードの展望と個人のフィンテック
今回、マネーフォワードアプリの機能に関連して、進化するお金の未来に関連した色々なお話を瀧氏から伺い、改めて多くの人が「お金の不安」について、”足りない” ”貯蓄できない”といった不安にばかり注目し、そもそも自分にとっての「お金の不安」の本質を把握していないことに気付いた。
インターネット経由で様々な機能や手段を利用していても、将来どのくらいの費用が必要か、それぞれのライフステージで的確に把握することは困難だ。だが、実はそこが一番大事な点かも知れない。
フィンテック利用と言っても、自動化、可視化ですべてが完結するわけではなく、そこで見えてきた「見える化したお金」をどのように生かすかは、(当然のことながら)各個人が機械(AI)だけに頼るのではなく、自分で考えていくことが重要なのだろう、と瀧氏のお話から感じた。
マネーフォワード サービス紹介
執筆者
和気 厚至
慶應義塾大学卒業後、損害共済・民間損保で長年勤務し、資金運用担当者や決済責任者等で10年以上数百億円に及ぶ法人資産の単独資金運用(最終決裁)等を行っていた。現在は、ゲームシナリオ作成や、生命科学研究、バンド活動、天体観測、登山等の趣味を行いつつ、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れた株式・為替・債券・仮想通貨等での資産運用を行い、日々実益を出している。