ロボット新時代を切り開く企業はどこだ?
日本のロボット生産は世界をリードし、安川電機[6506]やファナック[6954]等の好決算見込み発表に見られるように、世界経済を支える基盤として産業用ロボット需要の増勢が続きそうだ。(但しロボット関連企業の株価には好業績が織り込済の場合もある)
一方で、市場規模としては相対的に小さかった商用や家庭向けロボット分野も、最近大きな変化が訪れ始めており、今後の業績拡大が注目される。
ここでは、日本の様々な企業に浸透中のペッパーロボット等の商用ロボットや新発売後売れ行き好調と伝えられるAIBO等の家庭向けロボットについて、今後の可能性を考えたい。
目次
産業用ロボットの進展と新たな需要
産業用ロボット市場は、2020年までに年率14%の成長し約300万台に達すると予測され、ロボット利用国は中国を中心に2020年のアジア地域のロボット生産量予想は、2016年の世界全体の生産量レベルと予想されている。
主要市場は、中国、韓国、日本、米国、ドイツの5地域だが、日本はロボット製造において他国を圧倒しており、そのロボット生産能力は産業用ロボットの需要に応じて増大し続けている。(生産能力は2010年から6年間で約2倍)
ロボット関連売り上げの規模は、ソフトウェアやシステム整備費用の含めると年間4兆円を越えると想定されている。(産業用ロボットの内訳は、自動車約35%、電気・電子が約31%、金属・機械産業が約8%などとなっている)
参考:国際ロボット連盟「IFR forecast」
こうした産業用ロボットに匹敵する市場に、商用サービスや家庭分野の市場が成長するのではないかと期待されている。
ロボットの起源から家庭用ロボットへの道
12世紀頃からヨーロッパで作られた自動人形のオートマタがロボットの原型と言われているが、ロボットという言葉は1920年にチェコの作家カレルチャペックが生み出した造語ROBOTAというチェコ語から生まれた。
その後、ヒト型ロボットをテーマとする作品がSFジャンルとしては普通だったが、先に実用化され普及拡大したのは産業用ロボットだった。
ロボット大賞におけるロボットの定義は「センサーで計測して情報処理を行い、モノを動かす」だけでロボットと認められる広いものだ。
例えば、開発済みの家庭内の移動音楽ロボットから、自律移動機能の目(センサー)と頭脳(AI)だけを取り出して自動車に搭載した機器もロボットと言える。
こうしたロボット多様化の中で、コンピューターの小型化と高性能化により、漸くSFでイメージされていた家庭用ロボットが実用化され始めた。
タカラトミー[7867]のオムニボットシリーズは、SONY[6758]のAIBOに先駆けて1985年から販売され、おもちゃとしては高価格にもかかわらず一定の人気を得て「ハロー!ウ~ニャン」などいくつかのバリエーションも交え、シリーズは現在まで継続した人気を保っている。
最近のAI進化は、こうした家庭用ロボットの新しい時代をもたらしている様だ。
2013年発売の組立パートワークロボ「ロビ」(デアゴスティーニ)は累計12万以上出荷という。
介護現場で人気の高いアザラシ型ロボット「パロ」(産業技術総合研究所が開発)は世界初の癒し型ロボットとしてギネス認定され、35万円(+メンテ費等)という高価格でも福祉施設等での需要が継続し、高齢者の人気が高い。こうした癒し系ロボットの成功(受け入れ)が、AIBO再登場など最近の家庭用ロボット人気の背景となっている。
ペッパーの進化と普及
サービス現場でのロボット利用も加速している。
レスキューロボットや清掃ロボなどの非ヒト型サービスロボットの普及も進んでいるが、注目したいのは、ヒト型ロボットの進化だ。
代表的製品のコミュニケーションロボ「ペッパー」は、個人用よりも企業の利用が進んでおり、2015年の発売後半年で導入企業が500社を越えた「Pepper for Biz」は、企業からの要望の多い接客や受付等に活用できる機能を標準装備し、カスタマイズも容易なことから普及が進んでいる。
その利用は、すしチェーンの受付やJR東日本の受付業務等の接客・展示支援用途、工場内の監視利用や「一言多い」内線電話交換士から、名刺交換ロボットなどユニークな用途にまで幅広く広がっている。メディアで「ペッパーの父は誰か」の話題が盛んなのも、ロボットペッパーの存在感が一段と増している証拠のようだ。
ソフトバンクロボティクスはペッパーの開発を行った功労者を「ペッパーの父」と呼ばないよう「ペッパーの父は孫正義」として表現を改めるよう求め、「(実質的な開発者が生みの親と思われている現状の理解は)今後のブランド戦略上問題がある」としている。
部外者の目から見れば、そこまでこだわるような問題かと思えるのだが、逆にこの問題に拘泥する必要がある状況こそ、ペッパーに代表されるロボット事業が、ソフトバンク[9984]の事業の中でも大きな比重を占めるようになってきたことを意味するのではないだろうか。
ペッパーは、2006年に開発された「NAO」という身長58cm人型ロボットを原型にしており、NAOの後継機種は現在も世界中で販売されている、インタラクティブなカスタマイズ可能のコンパニオンロボットとして、ロボットが主役を務めるショーが欧米で評判になった、ニーズに応じたアプリで固有の経験による特性を造ることが出来るロボットだ。
Aldebaran社の小さな人型ロボット、NAOのご紹介 | Aldebaran
他にも、来客サービスで先行したHIS[9603]が経営する「変なホテル」のフロントロボット等など対人サービスをロボットが人の代行をする時代は既に到来しており、今後はサービス方法の多様化と増大すると思われる。
AIBO開発と新AIBO
SONYが1999年から2006年にかけ発売したロボット犬AIBOは、18関節での多様な動作と6つの感情表現を持つ先進的なAIロボットだったが、命令通りに動かぬこともある点などに愛着を持った愛好家には、家族同様に愛され続けた。(実は新型AIBOでも、バッテリーの不調等で時々止まるようだが、メディア報道では気付きにくいそんな不具合さえも、ペットらしい可愛さだというユーザーもいる)
2014年のアイボクリニック閉院(公式メンテナンス終了)後も、元SONY社員のア・ファンが設立した修理会社が、部品製造まで行いながら修理し、最終的に動作しくなったAIBOは献体(修理部品提供用)されて寺での“アイボ葬”や“アイボ和尚の読経”(千葉県光福寺)も行われる。(参照『よみがえれアイボ』今西乃子著 金の星社刊)
こうしたロボットへの愛情が育っていた素地が、2018年1月発売の新AIBOにも受け継がれているのではなかろうか。むしろ、さらに高機能になったAIBOは、AIロボットと人間との関わりを変えるだけでなく、安らぎや心の癒しを求める人々の生き方まで変えるのかも知れない。
例えば、最近話題のAIスピーカーでも、ありふれた天気予報や検索機能より、お気に入りの音楽リストをオーナーの好みに創りあげ、指示したジャンルで思わぬ名演奏やライブ録音をピックアップする等、まさに音楽AIならではの機能を高く評価する利用者が多い。(静かな朝の音楽をリクエストして、たまに元気なポップスが流れても愛着を感じていると愛嬌とも思える)
こんな点に今後、人々の生活をAIがどのように豊かにできるかという示唆があるのかも知れない。
癒しとロボット
ロボット、特に人間とのかかわりが重要な商用ロボットや家庭用ロボットには、人間代替という機能よりサービス利用の人間との棲み分けが進むと予測されている。
単純作業ロボットでは、既に人間の代替作業として利用が進んでいるが、より複雑で高い知能を必要とするロボットには、製造コスト次第ではあるが今後開発が進展しそうだ。
具体的にはディープラーニングで自律学習を行うAIロボットは、さらに感情や欲求・意図を持つ方向に進化し、学習結果だけでなく行動履歴が組み込まれて、独自の欲求・ユーザーとの対話などの組み合わせで新たな行動を選択し、自律行動すること(+単純な対話よりも高度な判断や深い認識を備えたモダリティへのニーズ)が、今後増加すると予測されている。
コミュニケーションロボット製品は、ペッパーやSONYの「Xperia Hello!」の様な高価格帯の製品から、タカラトミーのROBIやOmnibotシリーズなど安価品まで、既に幅広く展開され始めている。さらに、トヨタ[7203]のKIROBO miniなどAIスピーカー同様に、スマートフォンと連動で気軽に楽しめる製品が今後も続々登場すると思われる。
ロボット新時代を開くもの
対人サービスロボットには「ジェミノイドとテレノイド」の2つの方向性がある。
人間や動物等に酷似しているが違いを感じる時に出来る「不気味の壁」を越えて、ヒトとの差を解消する方向に進む「ジェミノイド」(パロなどは広義のジェミノイドロボットだろう)と、人間らしさとは離れるが、動きや容姿に人間らしさを感じさせることを目指す「テレノイド」の二方向に進むロボット開発だが、当面は開発コストと実現性から人間代替ロボットでは、ジェミノイドロボットが主流になりそうだ。
ペッパーのデザインは明らかにジェミノイドであり、AIBOと旧AIBOの差異は逆にテレノイド型を意識しているかも知れない。ペットなど動物型ロボットでは、不気味の壁が人間ほどには厳しくないこともありそうだ。
今後、対人サービスロボットが普及し規模を拡大する可能性は、組込AIの高度化に加えて、こうしたデザイン性の方向も発展の鍵になるかも知れない。
(参考:『人間とロボットの法則』石黒浩著 日刊工業新聞社刊)
近い将来、IOT家電の普及と並んで、こうした家庭用を含むコミュニケーションロボットの需要拡大の方向を機敏に察知した企業が、ロボット新時代をリードするのではないかと考えている。
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執筆者
和気 厚至
慶應義塾大学卒業後、損害共済・民間損保で長年勤務し、資金運用担当者や決済責任者等で10年以上数百億円に及ぶ法人資産の単独資金運用(最終決裁)等を行っていた。現在は、ゲームシナリオ作成や、生命科学研究、バンド活動、天体観測、登山等の趣味を行いつつ、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れた株式・為替・債券・仮想通貨等での資産運用を行い、日々実益を出している。