投資商品の取引手数料について
株式や投資信託等の購入・売却、保有等には様々な費用が必要となる。
証券会社や、銀行等の取扱い金融機関の使い分けや、比較的取引手数料が低額な場合が多いネット証券会社のメリット・デメリット等を含め、投資商品に関わる様々な取引手数料等について、株式取引に関する取引手数料を中心にして、紹介したい。
投資商品の種類
個人が投資できる投資商品には、次のような特徴がある。
上場株式は、株式会社に対する「出資持分」を保有(企業に出資する)することで、株式市場で形成される価格の値上がりによる収益と受取配当が期待できるが、値下がりや倒産等による資産毀損リスクもある。
外貨預金は、外国の通貨を預金するので、預金満期日の為替レートにより、預け入れた時点との比較で円安(円高)により為替差益(差損)が生じる。
投資信託 (ETF、リートを含む)は、投資家から集めた資金を受託会社が運用する投資商品で、ファンドマネージャーの運用方針により、公社債や株式等の各種投資先に分散投資し運用する。なお、ETF(上場投資信託)、リート(不動産投資信託)には、株式と同様の手数料、購入方法で取引できる商品が多い。
いずれも、元本保証がなく、換金に制約がある場合がある。
公共債、社債等は、国や地方自治体、企業等が資金調達のために発行する債券で、市況により価格変動もある。また、条件により株式変換できる転換社債等もある。
金銭信託は、信託銀行が利用者に代わり資金管理、運用する金融商品で、元本保証と元本保証のないものがある。
仕組預金、先物取引、FX(外国為替証拠金取引)は、デリバティブ取引を組み込んだ預金商品や、為替等の先物取引等で、FX取引を含め、価格変動が大きく投資妙味が多いが、損失機会も多い。(ディリバディブ取引には、オプション取引、スワップ取引がある)
その他、定額で金・プラチナ等を定期的に自動的購入する「純金積み立て」等の定額積み立て商品や仮想通貨の取引、商品先物や個人年金保険等も投資商品とされることがある。
仮想通貨取引は新しい分野だが、ビットコイン等の仮想通貨取り扱い証券会社が、増加傾向にある。
(金融庁は今月初めに、「登録仮想通貨交換業者」として、11社の社名を公表した。
ビットフライヤーなど以前から仮想通貨取引を行う企業に加え、SBIホールディングス傘下の「SBIバーチャル・カレンシーズ」や、GMOクリック証券関連の「GMOコイン」等のネット証券関連企業が新規参入した。さらに、松井証券、マネックス証券、楽天証券、カブドットコム証券【三菱UFJフィナンシャルグループ系】等にも参入検討等の動きがあると言われる。)
金融機関等で購入できる投資商品について
取り扱い金融機関によって、取扱商品や手数料が異なっている。
ただし、後述する、金融自由化により、銀行・証券会社・投資顧問業等の垣根の多くは消え、残る垣根もかなり低くなった。
例えば、証券会社では、投資顧問業や、投資ファンド、M&A仲介業務等欧米の投資銀行業務を手掛ける大手証券会社が増加し、一方、銀行窓口では個人顧客に向けた投資信託等の金融証券販売(委託販売)が可能となった。
投資信託
投資信託購入では、銀行の窓口販売の多くが、系列証券子会社等との連携強化が進められ、資金移動が円滑というメリットもある。(その他のメリットは、顧客のリスク許容度等に応じた商品提案やコンサルティングができる。運用実績や残高等の詳細報告の実施等)
また、大手証券会社は個人向け投信などの金融商品販売に加え、(ネット証券との競争もあり)ラップ口座など個人顧客の資産管理業務に注力している。
このため、投資信託を購入できる金融機関が、大きく分けて銀行・大手証券会社等の従来型証券会社・ネット証券に区分され、それぞれ手数料体系もかなり異なっているが、資産管理や相談業務のコストも考えると、単純な手数料比較が難しい場合もある。
株式
一方、個人の上場株式購入については、直接購入する場合は必ず証券会社に口座開設し、証券会社経由で行うことが原則だ。
証券会社の業務には、委託売買、自己売買、引受、募集売出しという四つの業務があり、このうち委託売買業務(ブローカー業務)が、口座を所有する顧客からの株式や債券等の注文を市場に取り次ぐ取引業務だ。(通常の単元株購入以外に、ミニ株やるいとう等の株式取引方法もある)
本稿では、この委託売買における株式購入の手数料を中心に取引手数料を紹介したい。(なお、ミニ株やMMFやMRF等の元本保証型公社債投信、国債や外国株取引の一部については、取り扱いの無い証券会社もある)
その他(FX、商品先物取引等)
投資信託、株式以外にも前述のように様々な投資商品があるが、大半の商品を証券会社が取り扱っている。(これらの投資商品の取引手数料や仕組みについては、投資信託、株式以上に取扱金融機関による差異が多いので、本稿での説明は割愛した)
株式取引手数料等
株式の取引手数料は、取り扱う証券会社や、取引方法によって違いがある。
例えば、株式現物取引で10万円購入の場合の手数料を、主な証券会社別に比較すると下記のようになる。
証券会社名 | 株を10万円分購入時手数料 |
---|---|
SBI証券 | 0円 |
松井証券 | 0円 |
むさし証券 | 81円 |
岩井コスモ証券 | 86円 |
岡三オンライン証券 | 106円 |
SMBC日興証券(ネット) | 135円 |
楽天証券 | 139円 |
立花証券 | 216円 |
GMOクリック証券 | 230円 |
ライブスター証券 | 432円 |
ヤマトダイレクトネット&コール | 1,080円 |
三菱UFJモルガン・スタンレート証券(ダイレクト) | 1,620円 |
野村ネット&コール | 2,700円 |
みずほ証券 | 3,780円 |
おおむねネット証券の取引では、実店舗を有し、窓口で営業を行う証券会社(店頭証券会社)に比べ、手数料水準が低い傾向にある。
但し、各証券会社は、取引実績や契約方法等で様々な手数料割引を行っており、自社株式や関連会社株式保有等による手数料割引や、ポイントバック(例えば楽天証券の楽天ポイント付与)等もあり、実質的に支払う取引手数料は異なる場合が多い。
また、多くの証券会社に、口座開設時のキャッシュバック等メリットもある。
(参考)
・証券会社別口座開設のメリット例
証券会社名 | 株を10万円分購入時手数料 |
---|---|
ライブスター証券 | 新規口座開設後2か月間手数料無料 |
岩井コスモ証券 | 新規口座開設後2か月間手数料無料 |
SMBC日興証券 | 信用取引手数料完全無料 |
マネーパートナーズ | 売却手数料無料 |
楽天証券 | 口座開設等で1000円、取引手数料に応じて楽天ポイント付与 |
カブドットコム証券 | 口座開設等で2000円キャッシュバック |
GMOクリック証券 | 口座開設等で4000円キャッシュバック |
SBI証券 | 口座開設等で2500円キャッシュバック、IPO落選者の次回当選率増 |
岡三オンライン証券 | 入金5万円で5000円キャッシュバック |
(2017年11月現在)
また、同じ株式10万円購入の場合でも、信用取引手数料は現物の場合とは証券会社の手数料ランキングが少し変わる。(下表参照)
・証券会社別取引手数料比較(信用取引)
証券会社名 | 株を10万円分購入時手数料 |
---|---|
SMBC日興証券 | 0円 |
むさし証券 | 81円 |
ライブスター証券 | 86円 |
岩井コスモ証券 | 86円 |
GMOクリック証券 | 100円 |
エイチ・エス証券 | 103円 |
カブドットコム 証券 | 106円 |
岡三オンライン証券 | 106円 |
マネックス証券 | 108円 |
SBI証券 | 154円 |
立花証券 | 189円 |
丸三証券・丸三トレード | 216円 |
楽天証券 | 270円 |
大和ダイレクトネット&コール | 308円 |
野村ネット&コール | 515円 |
三菱UFJモルガン・スタンレート証券(ダイレクト) | 540円 |
東海東京証券 | 599円 |
みずほ証券 | 1,108円 |
ネット証券会社の特徴
バブル崩壊後、三洋証券、山一証券や大手銀行の相次ぐ破綻以降、証券法改正で証券業が免許制から登録制に移行し、1999年には証券取引の委託手数料は完全自由化され、バブル後の不景気下で、既存の大手証券会社と中小証券会社の競争が激しくなった。
こうした競争と証券不況の結果、金融ビッグバンと称された銀行等の金融再編も進み、多くの証券会社が銀行系列等に吸収されたが、自由化を受け、格安手数料の証券会社も多く誕生した。
背景に、大和証券をはじめとした大手証券会社が、90年代にスタートしたオンライン取引が、手数料の完全自由化以降、格安手数料の証券会社が次々にオンライン(インターネット)取引を開始したことがある。
さらに、マルチメディア企業GMOがクリック証券の買収で証券業を開始した様に、他業種からの参入もあった。
リーマンショック以降には、格安証券会社の多くが、ITを活用したネット証券として存続を図り、大手証券、銀行系等の間で激しい手数料競争が続いている。
ネット証券は、格安手数料だけではなく、後発でオンラインシステムを作成した利点から、投資家のネット取引の利便性が高い会社が多い。
一方、従来型の証券会社は、大手三社(大和、野村、日興)以外でも、従来からのノウハウを生かした顧客相談業務と、企業との取引経験やノウハウを生かした株式公開や増資等の引受業務、募集業務及び経済情報収集能力に強みを持つ。
例えば新規公開株の割り当てを受けるためには、発行業務の主幹事証券経由の申し込みの方が取得しやすいことが多いなどのメリットもある。(社債、外国債券等、その他商品の取り扱い数も多い)
当然のことながら、取引手数料の高低は、株式取引の重要なファクターだが、長期的な投資には、株式運用の投資方針と個人の投資リテラシーによって、場合によっては、例えば相談業務を重視した取引方法(推奨銘柄の根拠・妥当水準の提示や充実した調査レポート提供等)の、店頭型証券会社との取引が望ましい場合もあるだろう。
このため、ある程度の経験を有する個人投資家は、複数のタイプの異なる証券会社を利用している場合が多い。
取引手数料の重要性
継続して株式取引を行う場合には、取引額に比べ小額なため、値上がり益に比べると軽視されがちだが、取引手数料が重要な要素であることは言うまでもないだろう。
日計り取引という、1日の取引時間中に売り買いを完結させるいわゆるデイトレーダーは、売買回数が多く、手数料の多寡は、収益に大きな影響があるのは当然だろう。
また、長期間にわたり売買を繰り返す場合の投資パフォーマンスにも、取引手数料によって、意外に大きな差異が出る場合がある。
一例として、筆者が主に株主優待取得目的で、ネット証券を利用して現物購入・空売り等によって6年間で約300回取引を行ったある電鉄会社の株式について、この間の投資リターンをみると、実際取引のネット証券では年間平均約4.2%だった利回りが、大手証券会社の手数料で再計算した場合には、約2.7%に低下した。(利回りには配当・優待等は含まない)
もちろん、取引額・方法や、取引頻度でこうした数値は大きく変化するが、前述の投資スタイルや投資方針を勘案しつつ、最適な取引先(手数料)を選択することも、投資パフォーマンス向上には大きな要素となることも間違いないだろう。
執筆者
和気 厚至
慶應義塾大学卒業後、損害共済・民間損保で長年勤務し、資金運用担当者や決済責任者等で10年以上数百億円に及ぶ法人資産の単独資金運用(最終決裁)等を行っていた。現在は、ゲームシナリオ作成や、生命科学研究、バンド活動、天体観測、登山等の趣味を行いつつ、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れた株式・為替・債券・仮想通貨等での資産運用を行い、日々実益を出している。