「民泊新時代」にニーズのある保険とは?
Airbnb(エアービーアンドビー)をはじめ民間の民泊仲介会社が短期間で伸びて、日本には数年前から民泊のブームが訪れています。
ところが本来宿泊場所ではないところで宿泊事業を行うことに加え、生活文化の異なる外国からの旅行者を宿泊者の中心に据えたことは、様々な近隣トラブルを生み出しました。
地域によっては条例にて民泊を認めたものの、全国的には旅館業法の適用で商業地の民泊のみOKという状況が続き、一方で営業停止とはならない状況が続きました。
今国会の閣議決定に引き続き国会審議が行われ、2017年12月、万を持して民泊が住宅地も含めての全面解禁となります。住宅宿泊事業法、いわゆる民泊新法です。
ただ、法律が制定されたからといって、民泊のもつデメリット面がすぐに解決するものではありません。
トラブルをあらかじめ予防するのは大切ですが、発生してしまった損害を金銭面で補償する「保険」の考え方が必要です。
民泊は以前から、様々な分野で「あたらしい保険を必要とする」と言われていました。
新しい法律のもと、訪れるいわば民泊新時代。ニーズのある保険とはどのようなものでしょうか。
まず保険業界が動き出しているのは、火災などにより建物や家財への被害があった際に補償する「損害保険」を基盤としています。
1.次々と発売される民泊新保険
損保大手の三井住友海上は、2016年10月に業界初の「民泊保険」を発売しました。
既存の火災保険をベースとしながらも、対象を民泊物件とし、火災や落雷、水害などが発生した際に補償対象とするものです。
三井住友海上「民泊保険」 補償対象 |
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火災・落雷・破裂・爆発 |
風災・雹(ひょう)災・雪災 |
水災 |
水濡れ・盗難・破損・汚損 |
このほかにもこの保険では、民泊の補償内容としてニーズのある3つの内容が設定されています。
個人賠償は既存の保険でも設定されていますが、民泊保険ではより民泊に特化した形で補償内容が提供されています。
なお「特約」とは入っていますが、保障内容全体で保険料が決まっています。
(1)借家人賠償責任・修理費用補償特約 … 支払限度3,000万円
民泊の保険で重要視されるのは、自然発生的な損害のほかにも発生する「賠償保険」です。
特に不特定な人を生活させるなかで、オーナーの持ち物を損壊したり、修理を要したりといったことが発生します。
その場合も旅行者が多いため、十分な賠償が期待できないケースもあります。その際に限度額3,000万円もの補償はとても心強いもの。
(2)賠償責任補償特約 … 支払限度5,000万円
宿泊者がオーナーではなく、近隣の居住者など第三者に損害を与えてしまった場合に補償する保険です。
宿泊者自身のケガも対象になります。
失火などによって、第三者が被害を受けた際に適用されます。
オーナーも管理責任が問われるなど、大きなトラブルにも発展してしまいがち。
そのため、支払限度額も5,000万円と、手厚い補償となっています。
(3)事業者用類焼損害補償特約 … 支払限度額1億円
宿泊者が失火などにより第三者の物件に延焼させ、オーナーが管理責任として訴訟を受けた際に適用される補償です。
前項はオーナーに事業者責任が問われる「可能性」ですが、こちらは実際に訴訟を受けて賠償責任が生じた際の補償です。
支払限度も1億円と、大きな負担額になるオーナー負担をなくすために手厚い補償を実現しています。
今後も様々な民泊保険が新設されてくると予測されています。総合的な保険の一方で、民泊独特の(1)-(3)に特化した専門型保険の誕生も期待されています。
生命保険では、細かい部分に特化したミニ保険(少額短期保険)が近年支持を得ています。
民泊も複数の物件を持ち、不動産事業の一種として運用をされている人と異なり、居住用住宅の一部スペースや、数戸のスケールで民泊事業をされている方もいます。
その事業規模の方に総合的な民泊保険はほとんど必要ありません。専門型保険に加入し、保険料を抑える考え方が今後も主流となっていくでしょう。
2.民泊新保険は家主不在型の物件をどのように運営するかがポイント
新しい民泊新法下では、家主が物件の近隣に居住していない場合の「家主不在型」の対応と、不在型で物件管理を担う「民泊仲介会社」がポイントになります。
特に家主不在型はオーナーが近くにいない分、近隣住民とのトラブルに繋がる可能性も高く、新法では仲介役となる民泊仲介会社を登録のうえ物件ごとに定めるように定めています。
民泊新法では、家主不在の民泊物件において、国土交通大臣に登録をして認められた「民泊代行会社(住宅宿泊管理業者)」が民泊物件の管理を担うことを定めています。
つまり、近隣住民にとって家主に直接問い合わせることができるケースと、管理者として民泊仲介会社に問い合わせるケースに分かれることになります。
新法下でニーズが期待される民泊の保険に関しても、新法下で新たに整えられるこの構図を踏まえたうえで、「誰を守るか」が大切になってきます。3つのパターンに分けてみていきましょう。
(1)物件オーナーを守る
変わらずにニーズがあるのは、物件オーナーに対しての補償です。
前項にてお伝えした三井住友海上の民泊新法のほか、既存の保険会社が新規参入してくることが予想されます。
新法下の民泊のなかでも最も保険が整備される分野ですし、競合の影響で保険料が下がることも予想されます。
(2)第三者を守る
民泊はそれまで宿泊事業がされていなかったところで事業を開始するという面で、様々なトラブルが危惧されています。
実際に法整備が進んだのも、先行した民間でトラブルが報告され、行政が法整備の必要性を実感したためともいえるでしょう。
(1)の総合的な保険でもカバーはされますが、第三者保護に特化した専門保険が拡大することにも期待です。
(3)民泊仲介会社を守る
最後は家主不在型の民泊でキーポイントとなる民泊仲介会社の保護です。
オーナーの代行業務を行う仲介会社には、民泊仲介会社の事業で損失を生じてしまった場合を保障の対象とする、という保険のニーズが生まれます。
この部分を和尚する保険も増えてくると見込まれます。
現在、不動産の賃貸物件を管理する不動産管理会社が民泊仲介会社として存在感を示すことになるといわれています。
不動産管理会社は既に保険加入によるカバー体制が整っている会社がほとんどですが、民泊解禁を見て新たな保険に加入する会社も増えてくるでしょう。
3.十分に保険に加入した会社を信用する
民泊の利用者やどの不動産会社を利用しようか検討しようと考えている方は、民泊保険への保険に十分に加入した会社を信用する、という考え方もひとつの方法です。
何かあったときのトラブルに対する補償や、そもそもトラブルに対する予防体制は「民泊保険に加入しているかどうか」で判断できる部分もあると考えます。
今後は、Airbnbのようなガリバー的な存在の会社以外にも民泊を関連する企業は次々と生まれていくことと考えられます。
法律によるバックアップを受けるため、今まで以上に拙速な会社や周囲の設備も整わない会社も増えてくるでしょう。
そのときに利用者から見て、保険というカスタマー保護を考えているかどうかを保険加入という側面で判断することができます。
4.まとめ
今年の冬に「民泊新時代」が訪れる可能性はとても高いです。
そのとき、保険がどのように活用できるかは、今後保険会社が用意するラインナップによってきます。
現在は日本でもミニ保険という形で保険への新規参入もしやすくなっており、民泊新法下を見越した保険会社の参入も考えられます。
今後、民泊事業をされる方は、総合的な状況を見て自身の環境を整備していくことが大切です。
執筆者
工藤 崇株式会社FP-MYS代表取締役社長兼CEO
ファイナンシャルプランニング(FP)を通じて、Fintech領域のリテラシーを上げたいとお考えの個人、FP領域を活用して、Fintechビジネスを開始、発展させたいとする法人のアドバイザーやプロダクトの受注を請け負っている。Fintechベンチャー集積拠点Finolab(フィノラボ)入居企業。FP関連の執筆実績多数。東京都千代田区丸の内。