医療保険は「損する保険」と考えてしまってもよいのか?
こんにちは。ねこのてFP事務所の横山研太郎です。
医療保険は、なにも病気にならなければ保険金を受け取ることがない「掛け捨て」タイプの保険です。
入院することが少なければ支払う保険料の方が多くなるため、医療保険を「損する可能性の方が高い保険」だと考えている人も少なくありません。
しかし、これからの高齢化社会においては、医療保険の重要性は増していくと考えられます。医療保険は何に備えられるのかを振り返っておきましょう。
高齢化の進展は、老後の生活費に直結する
医療技術の進歩で、日本人の高齢化が進んでいます。厚生労働省が公表している「完全生命表」によると、2015年の日本人の平均寿命は、男性で80.75歳、女性で86.99歳となっています。
5年前に行われた2010年のデータでは、男性が79.55歳で、女性が86.30歳となっており、日本人の平均寿命が着実に伸びていることがわかります。
その大きな要因が、医療技術の進歩です。昔は死亡に直結する病気でも、定期的に病院にかかりながら日常生活を送ることができるようになっているものも増えています。
長生きできることはいいことかもしれませんが、その一方でデメリットがあることも忘れてはいけません。それは、「老後の生活費が増えてしまうこと」です。
老後の生活費が毎月どの程度必要かは人によってさまざまですが、仮に20万円かかるとしましょう。
この場合、1年で240万円必要であり、長生きすればその分だけ老後の生活費が増える計算になります。
5年長生きするかもしれないなら、1,200万円も余分に生活費が必要になってしまうのです。
高齢者は収入を得る手段がとても少ない
今の日本では、自営業者や会社経営者でもない限り一定の年齢で定年を迎え、その後は年金収入が頼りになります。
働いて収入を得ることもできますが、身体的な問題でできる仕事は限られ、定年前よりも給与水準は下がってしまいます。
また、収入が多ければ、年金が一部支給停止(支給額削減)されてしまう可能性もあります。
さらに、年金財政が苦しいことから、物価上昇ほどに年金額が上昇しないという「年金の目減り」も問題視されています。
こういったことを考えると、高齢者が安心して老後を迎えたくても、収入を増やすのには限界があることがわかります。
資産運用をするとしても、老後資金をハイリスクな金融商品に投資するわけにもいかず、年間数%程度のリターンが限界でしょう。
そうなると大切なのは、現役世代のうちから計画的に資産形成を考えることと、老後の支出をできるだけ抑えることです。
以上のように、高齢者が長生きするようになったにもかかわらず収入を得る手段が少ない現状からすると、今の日本は死亡リスクよりも長生きリスクの方が大きな時代になったと言えるのではないでしょうか。
高齢者の支出で気をつけるべきは「医療費」
総務省が公表している「家計調査」では、高齢者世帯(世帯主が65歳以上である2人以上の世帯)の消費出の内訳についてのデータが掲載されています。
このデータから、支出の構成割合で注目すべきところを抜粋しました。
高齢者世帯 | 高齢者が世帯主でない世帯 | |
---|---|---|
食費 | 27.0% | 23.9% |
保険医療 | 5.9% | 3.5% |
交通・通信 | 11.4% | 15.5% |
教養・娯楽 | 10.1% | 9.7% |
交際費 | 10.9% | 5.9% |
※総務省「家計調査」(平成27年分)より抜粋
※抜粋のため、合計は100%になりません
こうして見てみると、大きく割合が増えているのが「保険医療費(約1.7倍)」と「交際費(約1.8倍)」です。
これらの負担を軽くすることができれば、支出を抑えることができそうです。
ただ、交際費は教養・娯楽費と同様、高齢者が充実した老後を送るために必要なものだと考えられます(もちろん、無駄な費用は抑えたいところですが)。
無理に交際費や娯楽費を使わないようにして、退屈な老後を送り続けるのは大変でしょう。
一方の保険医療費は、健康であれば支出を抑えることができる部分です。
75歳以上の後期高齢者であれば、自己負担割合が1割と格安だからと、特に異常がなくても病院に毎日のように通う人も少なくありません。
この場合は、医療費自体は少ないかもしれませんが、バスや自家用車を使っている分だけ交通費がかさんでしまっています。
こういった費用を抑えることで、老後の生活費を少しでも削減することができるようになるでしょう。
突発的な医療費増加を、保険で補うことができる
高齢者が医療費について心配しておくべきことは、突発的な医療費負担です。
若い頃のように体が自由に動かなくなってしまうことや老化に伴って、ケガや病気をすることが多くなってしまいます。その結果、入院が必要になることも出てくるでしょう。
実際、厚生労働省が公表している「患者調査の概況(平成26年)」によると、調査日に入院している患者数約131.8万人のうち、65歳以上が約93.7万人、75歳以上が66.9万人となっています。
入院患者の7割以上が65歳以上で、半数以上が75歳以上となっているのです。
高齢になってから入院する可能性が高くなってしまうのは、このデータからも明らかです。
今は健康で入院とは無縁だと思っている人でも、高齢になってからは入院が必要になることが少なくないのです。
入院しなければならない事態になった時には、急に多額の医療費を支払わなければなりません。
その費用を補うために活用できるのが、健康保険の高額療養費制度と民間の医療保険です。
高額療養費は、長期入院が必要になった場合に有効です。
高額療養費制度は1か月の医療費自己負担額が一定額を超えた場合にのみ活用することができ、数日程度の短期入院では活用できないことが多いためです。
そんなときでも、近年中心になっている「1日の入院でも保障する」医療保険なら、医療費の出費を補うことができます。
医療保険は元が取れない保険と言われるが
医療保険は、「元が取れない保険」と言われることも少なくありません。
確かに、多くの人が、受け取った入院給付金が支払った保険料を大きく下回っているでしょう。
しかし、だからと言って「医療保険=損をする保険」と決めつけてしまうのは早計です。そもそも、医療保険は貯蓄性がある保険ではないからです。
医療保険の中でも、終身保障で60歳や65歳といった年齢で保険料の支払いが完了するものは、「一生涯の医療費の一部を、若いうちに支払う」仕組みと考えることができます。
もし、長期入院が必要になった時に、その出費を仕事で収入を得て補うことができないために、老後資金が減って先々の生活に不安が生まれてしまうでしょう。
そのようなダメージを少しでも抑える効果も期待できます。
ただ、これからも高齢者の寿命が延びていくと思われます。
「医療保険に加入しているから、老後のための貯蓄は少なくていい」とは考えず、できるだけ多くの貯蓄を作ることができるようにしましょう。
そうすれば、医療保険と貯蓄の両面で長生きリスクに備えることができます。
医療保険は「備え」であることを理解しておきましょう
医療保険は貯蓄性のある保険ではありません。
いざという時の備えであるということを理解した上で、老後の長生きリスクに備えることができる保険の1つだと考えましょう。
老後の医療費がかさんだとしても充分に支払えるほどの資産がある人でもなければ、医療費の出費は老後生活の悩みの種になる可能性があります。
そんな悩みを軽減することができるということを意識した上で、医療保険に加入するべきかどうかを考えてみるのがよいでしょう。
執筆者
横山 研太郎ねこのてFP事務所代表
富士通株式会社退職後、メーカーの経営サポート等を行う。 現在は、ファイナンシャル・プランナーとして、資産運用を柱としたアドバイスをするだけでなく、学生への金融教育にも取り組んでいる。