健康状態で保険料が変わる保険商品 今後の進化にも注目
生命保険には健康状態によっては加入できないものがありますが、基本的には商品ごとの保険料は、年齢・性別に応じて決まります。
平成28年に健康年齢少額短期保険株式会社から、健康状態が何歳にあたるかを示す「健康年齢」によっても保険料が左右されるような保険商品が登場し、今後他社からも発展させた形の保険商品の販売も予想されます。
健康年齢で保険料が変わる医療保険
従来の保険料の決め方は年齢別・性別
従来の一般的な生命保険料の決め方ですが、契約時の年齢別・性別に決めています。
保険料の決め方が年齢別である理由は、病気・死亡の確率が年齢ごとに異なるからです。
年齢を重ねる程、死亡や病気の確率が上がるため、保険会社は契約時の年齢が高い人からは保険料を多くもらおうとします。
健康年齢別に保険料を決める新しい決め方
最近では保険料を年齢でなく、健康年齢で決めるという新たな決め方が普及してきています。
血圧・体格や尿検査(尿たんぱくの測定)・血液検査(血糖値など測定)の結果で健康年齢が決まります。
ですので、実年齢が45歳でも健康年齢が40歳と若かったり、逆に50歳となったりします。
今までも実年齢より若い健康年齢を目指そうという目標は、個人の目標として持っている方はいらっしゃいました。
しかし、健康年齢に生命保険の保険料が左右されるとなれば、お金の損得に影響してきます。
そのような健康年齢に連動して保険料が左右される医療保険として、平成28年6月に健康年齢少額短期保険株式会社から「健康年齢連動型医療保険」が販売され、続いて平成29年4月にはネオファースト生命から「からだプラス」が販売されました。
ここでは、ネオファースト生命「からだプラス」を紹介します。
7大生活習慣病保険の特徴
健康年齢で保険料が決まるネオファースト生命「からだプラス」は、7大生活習慣病保険にあたる医療保険です。
広く病気をカバーする医療保険と、がんに特化したがん保険の中間的な性格と言えます。
7大生活習慣病にかかって入院した場合に、100万円の給付金を最大10回(ただし1年に1回まで)まで受け取れます。
なお7大生活習慣病とは下記の通りになります。
7大生活習慣病
- ※がん
- ※心血管疾患(心筋梗塞など)
- ※脳血管疾患(脳卒中など)
- *糖尿病
- *高血圧性疾患
- 肝疾患(肝硬変など)
- 腎疾患(慢性腎不全など)
上記で挙げた七つの病気は七大疾病と呼ばれます。さらに※のついたがん・心血管疾患・脳血管疾患を三大疾病、三大疾病に加えて*のついた糖尿病・高血圧性疾患を加えたものを五大疾病と呼び、三大疾病や五大疾病向けの医療保険もあります。
最初は実年齢、更新時から健康年齢適用
ネオファースト生命「からだプラス」は健康年齢で保険料が変動する商品ですが、契約時には実年齢での保険料を適用します。
ネオファースト生命「からだプラス」実年齢による保険料例
- 入院一時給付金額100万円での月額保険料
20歳女性:1,746円
30歳女性:1,942円
40歳女性:2,113円
となります。その後3年毎に契約更新を行いますが、更新後は提出した健康診断結果に基づいて計測される健康年齢に応じて保険料が決められます。
ネオファースト生命「からだプラス」健康年齢による保険料例
- 更新後の健康年齢に応じた月額保険料
20歳女性:1,382円
30歳女性:1,537円
40歳女性:1,672円
50歳女性:2,127円
となります。契約時に30歳だった方が3年後の更新時に健康年齢30歳であれば月額保険料が1,942円から1,537円に下がりますが、健康年齢50歳になると1,942円から2,127円に上がります。
健康体割引は様々な生命保険に導入されている
これまでは健康年齢で保険料が決まる商品を見てきましたが、従来の年齢・性別で保険料が決まる生命保険でも、健康体割引の形で健康状態が反映されるものもあります。
例えばネオファースト生命の終身医療保険「ネオdeいりょう」では、禁煙してから1年以上経っていれば非喫煙者割引を受けられます。
喫煙しているかどうかは、がん発症リスクに関わりますので、たばこを吸っていないと割り引く保険は多いです。
保険料は、30歳女性で保障を絞ったシンプルプランの場合、非喫煙者割引なしでは月額1,709円ですが、非喫煙者割引ありでは1,456円と15%ほど下がります。またBMI(体格)や血圧によって割り引く保険もあります。
国の健康増進政策が健康年齢で変わる医療保険を後押し
国は今、国民の健康増進政策を推進しております。この健康増進政策は、保険適用医療費を削減するためのものですが、民間の医療保険にも波及してきました。
健康増進政策による健康保険組合の健康指導
平成11年度に30兆円超だった国民医療費が、平成26年度には40兆円を超えるなど、高齢化社会の進展により医療費が年々増加しております。
保険適用の医療費が増加している場合、公的医療保険の保険料収入もそれに合わせて増加できるのが理想ですが、少子高齢化により財源の確保が難しくなっています。
健康保険の運営をしている団体(健保組合や自治体)などは、医療費の増加を少しでも食い止める策を迫られています。
医療費の増加を食い止めるためには、健保組合や自治体は被保険者に対し健康指導などを行うことになります。
最近では企業経営を行う上で、従業員の健康管理を会社発展の経営戦略ととらえる「健康経営」という考え方も重要視されるようになりました。
健康保険組合の中には、健康増進を図った従業員にポイント還元や現金給付などを行っているところもあります。
近年の国の方針で、被保険者の健康増進に支援するよう、健康保険組合や自治体に対して努力義務を課したからです。
ただポイント還元・現金給付等で公的医療保険の実質的な保険料負担が健康状態に左右されることは批判を呼ぶため、この動きが過熱しないよう厚生労働省は健保組合などに注意を呼びかけています。
健康増進政策を意識し健康年齢連動型保険が作られる
日本医療データセンターが健保組合などから受けた健康診断結果を分析することにより、健康年齢は開発されました。その健康年齢に連動する形で、上記で説明した保険が販売されました。
「健康年齢連動型医療保険」を開発した保険会社側も、上記の健康増進政策を意識して開発したと発表しております。
国の健康増進政策を受けて、健康年齢その他健康状態により保険料が左右される保険商品は、この先様々な保険会社からの販売が予想されます。
技術進歩により予想されるテクノロジー連動型の保険
ネオファースト生命が「からだプラス」の販売開始をした際に触れていますが、健康年齢連動型の医療保険が販売できているのは、国の健康増進政策だけでなく技術進歩によるところも大きいと言えます。
Fintechという言葉が日本社会でも普及してきましたが、これは新たな金融サービスを生み出すIT(情報技術)を指したり、もしくは金融とITを組み合わせて新たなサービスを生み出す動きを指したりします。
金融には保険も含まれますが、保険とITの組み合わせによるものはInsurTechと呼ばれます。ネオファースト生命のような第一生命グループでは、InsTechという独自の言葉を使用しています。
体につけた歩数計が保険料を左右する!?
現在販売されている健康年齢連動型の医療保険は、被保険者から健康診断結果の提出してもらい、その結果から健康年齢を割り出して保険料を決めます。
いわば過去の健診結果をデータ分析する段階でInsurTechを生かしていることになります。
より進んだ形でInsurTechを生かした医療保険は、例えば人間の体に装着して歩数などを計測する機械(ウェアラブル端末と呼ばれます)を使い、よく歩くなど健康増進に努めた場合はキャッシュバック(保険料を一部戻す)を行うというものです。
このようなウェアラブル端末により得られたデータを利用する医療保険は、東京海上日動あんしん生命が平成29年4月に「あるく保険」として販売開始しました。また住友生命保険とソフトバンクが販売を検討しています。
今後キャッシュバックと言う方式ではなく、保険料に反映するような商品が開発されることも想定できます。
被保険者は保険料に反映されることを意識しつつ装着するので、「保険料が上がらないように、健康を保とう」と考えるような、健康増進を意識するいい動機づけができることが期待されます。
なお自動車保険でもInsurTechは進んでいます。例えばソニー損保の自動車保険のように、運転者の走行距離やアクセル・ブレーキのかけ方などから運転能力を計測し、場合によってはキャッシュバックを行うような保険もあります。
損保ジャパンでは平成29年度中に、スマホで運転能力を計測し保険料が決まるような自動車保険を開発するという方針をたてています。
広がりが見込める健康状態に連動した保険
公的医療保険制度・民間の医療保険の両者で健康状態を金銭に反映させるような仕組みづくりがされています。
ただ公的医療保険制度で、健康状態に保険料が左右される仕組みまでになると、抵抗を持つ国民もいます。また平成28年からはマイナンバー制度が導入され、マイナンバーで健康状態まで管理していこうという動きに批判があります。
また公的医療保険は所得など負担能力に応じて保険料を決めるべきというのが、従来の一般的な考え方だからです。
ただ民間保険では健康状態によって保険契約や保険料に影響が出てくるのは一般的な話として認識されており、すでに健康状態によって保険料が左右される商品は販売されていますので、今後他社からの販売も期待できると言えます。
ウェアラブル端末からの計測結果で保険料が左右されるような保険商品は、いずれ販売されると予想されます。
執筆者
石谷 彰彦ファイナンシャルプランナー
保険代理店を兼ねる会計事務所に勤務し、税務にとどまらず保険・年金など幅広くマネーの知識を持つ必要性を感じファイナンシャル・プランナーの資格を取得。保険・年金・労務・税金関係を中心にライティングを行う。