4月に保険料値上げの動き!生命保険に入ったら本当に損?
平成29年4月に生命保険料が値上がりしたことが報道されました。もはや生命保険に入ると損というイメージをもった方もいるでしょうが、それは保険にもよります。
積立型や貯蓄型は4月以降確かに損になったと言えますが、掛け捨て型は決してそうとは言えません。
死亡保険の保険料など下げることを予定しているものもありますので、「生命保険に入っても損だ」と決めつけないでください。
どの保険が値上げになったのか?
それでは、どのような生命保険商品の保険料が、4月より上昇したのでしょうか?
終身死亡保険・個人年金保険・学資保険などが上昇
死亡保険のうち、一生涯保障の終身保険は保険料が上昇しましたが、保険期間が60歳まで等と区切られた定期保険は影響を受けていません。
養老保険は保険期間が決まっていますが、貯蓄性があるため保険料が上昇しています。
老後年金の上乗せとなる個人年金保険は、保険料が上昇しています。
また子供の進学時(特に大学進学時)に祝金や満期金がおりる学資保険に関しても上昇しました。
例えば40歳男性が終身死亡保険に加入する場合、かんぽ生命では11.5%、日本生命では22.1%保険料が上昇することになりました。
掛け捨て型保険と貯蓄型保険の違い
保険は大きく掛け捨て型と貯蓄型に分かれます。
掛け捨て型保険では、必ずしも保険金がもらえるとは限りません。例えば死亡保険の定期保険は、5年・10年などと決められた保険期間が過ぎて生存していれば、保険金はおりません。
一方、貯蓄型保険は将来的に満期保険金の形で保険金が必ずおりるものになります。例えば終身保険であれば、一生涯保障ですから何歳で亡くなっても保険金は必ずおります。
また養老保険は、保険期間が終われば満期保険金がもらえ、保険期間の間に亡くなった場合は死亡保険金がおりる生死混合保険です。このため養老保険も必ず保険金がおります。
ただし貯蓄型保険を途中解約した場合は、解約辺戻金がもらえるものの、払い込んだ保険料を下回る元本割れの危険性もあります。
満期まで待てば払った保険料分損しないという考え方から、日本ではどちらかというと貯蓄型保険が好まれてきましたが、残念ながらこの貯蓄型保険が値上げの直撃を受けました。
なぜ貯蓄型保険の値上げが行われたのでしょうか?
運用益低下により貯蓄型保険が値上げ
貯蓄型保険では、契約者から預かった保険料を、責任準備金(将来の保険金を支払うために充当)として積み立て運用します。
国内外の債券・株式に投資しますが、国債中心に運用します。
よって運用益がどれだけあげられるかは、国債の金利に大きく左右されます。日本銀行の低金利政策や、マイナス金利政策によって国債の金利は年々下がってきました。
この国債(具体的には10年で元本が償還される国債)の金利に基づいて、金融庁では標準利率を決めていますが、平成29年4月に1%→0.25%に引き下げられました。
さらにこの標準利率に基づいて、保険会社が自社の状況に基づき契約者に約束する利回り(予定利率)を決めるため、多くの保険会社で保険料値上げがおきました。
保障する保険金額と予定利率をもとに、保険料を逆算して決めることになります。
国債の金利があまりにも低いことがあり、投資先に関して外国の国債も配分を増やしました。それでも保険会社の運用状況は厳しく、貯蓄型保険の保険料引き上げをせざるを得ない状況になりました。
なお掛け捨て型保険は、一部の契約者のみ保険金を支払うしくみで、保険料から運用に充てる部分がありません。よって掛け捨ての保険料は影響を受けません。
保険の機能を考える
日本では掛け捨て型が嫌われますが、掛け捨て型にこそ保険本来の機能があるといえます。
本来の機能は保障(補償)すること
もしも死んでしまったら、もしも病気になったら、もしもケガしたらと考えた時に、何百万円何千万円とかかる葬儀費用・遺族の生活・医療費などを備えるために保険があります。
そのため月何千円・何万円と計画的に払っていくのです。
病気やケガをすれば生きていくのが大変ですが、適切な保険に加入していれば保険金のおかげでお金には困りません。
何も起こらなければ確かに掛け捨て型はお金の面では損ですが、幸せな生き方はできていることになります。
貯蓄型保険を日本人は好んで来た
しかし上記の考え方は日本では浸透しておらず、掛け捨て型より貯蓄型が得だという風潮ができました。
ただ貯蓄型保険を契約するのは、他者=保険会社に運用を任せている状況です。
保険会社は、株式で運用する割合を増やして大きな損失が出ると存続に影響が出るため、そのようなことはできません。かといって国債中心でも大きな運用益は出ないという苦しい状況になっています。
金利が高かった時代の運用益が出るという前提では、運営できなくなっています。
死亡率低下により定期保険は下がる予定
死亡保険に関しては、実は来年平成30年4月に保険料を下げる予定があります。
貯蓄型保険における標準利率に相当するものとして、死亡保険の場合は標準死亡率というものがあります。
ただしこれは金融庁ではなく日本アクチュアリー会という社団法人が計算しており、死亡に関する統計を基に1年間に亡くなる率を予測したものです。
標準死亡率の低下は、平均寿命の伸びで長寿が当たり前の社会になり、全ての年代で死亡率が減少しているのが原因です。死亡率が減少すると保険金の支払いが減りますので、保険料は減少します。
死亡保険金の支払いには掛け捨て型・貯蓄型は関係ありません。
終身保険のような貯蓄型は、運用環境の変化により保険料減少・増加の効果が相殺されますが、掛け捨て型は保険料減少の恩恵を大きく受けることになります。
貯蓄型と掛け捨て型死亡保険を組み合わせる
死亡保険に関しては、保険料が高くつくかもしれないけど一生涯保障したいという要望もあります。
ただずっと同じ保障額を続ける必要も無いので、貯蓄型と掛け捨て型をうまく組み合わせれば良いのです。
一生涯同じ金額を保障する必要は無い
子供が小さいうちは、もしものときは遺族の生活保障のために、保障額を大きくする必要はあります。
ただし子供が独立すれば、教育資金負担は無くなりますから、保障額を小さくすることも考えられます。
組み合わせ方と見直し方の例
掛け捨て型の死亡保険は定期保険、貯蓄型の死亡保険は終身保険になります。
どちらか一方にこだわる必要はありません。
- 定期保険と終身保険の2種類に加入する方法
- 定期特約付終身保険に加入し、更新毎に定期特約を見直していく方法
があり、うまく利用することで保障額を変動させることができます。
オリックス生命の終身保険「ライズ」・定期保険「ブリッジ」を例に見ていきましょう。
25歳男性が契約したとして、終身保険の保険料は終身支払いを続け、定期保険は20年で満了するものとします。
終身保険・定期保険の保険料を試算
2,000万円保障の終身保険:月23,660円
1,000万円保障の終身保険:月11,830円
1,000万円保障の定期保険:月1,325円
定期保険と終身保険では、同じ1,000万円保障でも保険料が10倍違います。
また定期保険+終身保険で2,000万円保障する場合は月13,155円ですから、終身保険だけで2,000万円保障の場合とは倍異なります。
定期保険が期間満了になり、その後保障額を変えず更新すると保険料は大きく値上がりしますが、子育てをして保障を小さくしていくことも考えられます。
25歳で20年満了の定期保険を契約すると45歳で更新になります。1,000万円保障のままでは保険料が月4,897円(保険期間20年)になりますが、ここで500万円保障に下げると、月2,562円(保険期間20年)になります。
年齢的に保障額を下げても定期保険の保険料は上がりますが、終身保険だけで2,000万円保障の場合に比べれば、保険料を安く抑えられます。もう少し終身保険の保障額を少なくし、定期保険の保障額を多くすることも考えられます。
お手頃な値段で保障する掛け捨て型を見直そう
保険料の戻らない掛け捨て型は嫌われてきましたが、貯蓄型は国債金利低下に伴いますます損になっていきました。同じ保障なら、貯蓄型に比べれば掛け捨て型ははるかに低い保険料で済みます。
特に死亡保険であれば、保険料を決める基準となる標準死亡率低下により保険料引き下げが予定されており、掛け捨て型の保険料と貯蓄型の保険料の差が拡大していくと考えられます。
一生涯保障を求める場合であっても、ずっと同じ保障額である必要はありません。
保険の見直しは来店型の相談ショップが増えるに伴い流行りになってきましたが、実際に保険に加入しているのであれば必要な作業と言えます。
終身保険と定期保険を組み合わせ、更新時期もしくはそれ以外の時期でも見直しをしていくことで、高い保険料を回避することが可能です。
もしものときのために備えるのが保険ですから、掛け捨てが嫌だからと言って家計に負担になるような保険料支払いをすると、払いきれなくなって解約し元本割れという事態も起こりえます。
「損して得とれ」と言う言葉もありますが、掛け捨て型保険にはまさに当てはまると言えます。
執筆者
石谷 彰彦ファイナンシャルプランナー
保険代理店を兼ねる会計事務所に勤務し、税務にとどまらず保険・年金など幅広くマネーの知識を持つ必要性を感じファイナンシャル・プランナーの資格を取得。保険・年金・労務・税金関係を中心にライティングを行う。