2017年税制改正はここがポイント!
今年も様々な税金制度が変わり、生活に影響を持つ季節がやってきました。
2017年も注目される税制改正が予定されています。
資産税・相続税関連を中心に、いくつか確認してみましょう。
相続税・贈与税の納税義務見直し
最初は海外に資産を有する人への相続税・贈与税の課税について。
よく「海外に資産を移すと相続対策になる」という話を聞きます。
正しくは節税ではなく国内法の影響外のため、租税回避として本来許されるものではないのですが、資本家のなかにはこれを理由としてシンガポールなどに生活拠点を移す人もいます。
これまでは、日本国外に居住する日本人の「国内に住所を有していない期間」の基準が5年以内の居住期間を超えると相続税・贈与税の課税対象から外れていました。
しかし、平成29年4月1日以後の相続・贈与からこの部分が「10年以内」に変更となりました。
これは、グローバル社会の発展によって5年を超えて国外居住するケースが増え、その人を税額免除としていると国内で(真面目に)税金を納めている人とのあいだで不公平感が生まれるためです。
また、日本国内への駐在が一時的な外国人の場合は、国内財産のみ税額の対象となります。
その人が有している本国の自宅などは日本の相続税がかかりません。
タワーマンションへの固定資産税等の課税の見直し
居住用超高層建築物こと高さ60メートルを超えるタワーマンションはこれまで、階数に限らず一定の固定資産税がかかっていました。
平成29年4月以降に売買契約が始まる新築物件で、平成30年以降に課税対象となる建物からは「高層階ほど固定資産税が高くなるよう」見直しが行われます。
今後タワーマンションを購入される方は、階数によって課税される固定資産評価額が変わることに注意が必要です。
政府の見解によると、既存のタワーマンション所有者は対象外となる見込みですが、見通しが変更される可能性もあるため、現在マンションを持っている方も今後の動きに注目です。
なお、これはいわゆる相続税の評価額と時価の違いを利用する「タワマン節税」とはまったく別のもの。混同しないようにしましょう。
タワマン節税に関しても国税庁から改善指針が出されており、近いうちに打診が出るものと考えられています(こちらは法改正よりも、国税庁からの指針という位置付けです)。
物納財産の順位の見直し
相続税の課税義務が課せられるも「払うお金がない」というとき、金銭の代わりに「モノ」を納める物納という制度があります。
証券や不動産は、売却したいときに希望の価格で売れるものばかりではないので、実は使い勝手の良い制度です。
これまで物納は、以下の順位が設定されていました。
現在の順位 | 改正される順位 | |
第一順位 | 国債・地方債・不動産・船舶 | 国債・地方債・不動産・船舶 (上場株・上場投資信託) |
第二順位 | 社債・株式・投資信託 | 社債・株式・投資信託 (非上場株・非上場の投資信託) |
第三順位 | 動産 | 動産 |
動産とは金や絵画、骨董などのこと。
今後、これまで第二順位だった社債・株式・投資信託のうち「上場されているもの」は、第一順位として扱われることになりました。
これは上場資産が一般の人にも身近であり、所有している人が多いという点がひとつ。
もうひとつは2015年の相続税改正により税額控除額が減少し、いわゆる富裕層ではない人も相続税の納税義務を負う可能性が増えてきたことによります。
まだこの改正は施行時期が固まっていませんが、数年以内の開始が見込まれています。
積立NISAの創設
NISAとは少額投資非課税制度のこと。
上場株式や投資信託など、NISA専用に作成した口座で管理した資産は年間120万円までが非課税となります。
平成30年以後、あらたに少額からの積立や分散投資を促進するための積立NISAが新設されることになりました。
新設後は、現在の現行NISAとの選択可能の制度になります。
毎年の投資上限額が40万円で、そこから得られる配当や譲渡益が20年間非課税となります。
積立NISA設立の背景には、これまでのNISAの利用伸び悩みがありました。
そこでNISAほど「敷居が高くなく」、投資金額も低い方法が誕生したという背景です。
今後、年金不安や老後資金の確保を背景として、より「貯蓄から投資へ」という世の中の流れが推奨されるものと予想されています。
そのときに、受け皿となる積立NISAの制度です。
酒税の見直し
お酒好きには大注目のこの税制改正です。
今後5年前後をかけて、現在さまざまに設定されている「酒税」が一本化されます。
一本化されたあとの定義と一本化する期日は表の通りです。
ビール系飲料(ビール・発泡酒・第3のビール) | 平成38年10月1日 |
チューハイ類(そのほかの発泡性酒類) | 平成38年10月1日 |
日本酒等(醸造酒類の清酒) | 平成35年10月1日 |
今年は平成29年度。なぜこれほどの長い期間をかけて変更するのでしょうか。
理由はこの税額変更が「家計に直結」するからです。
現在小売で見られる店頭価格は、付加税金の違いによるものも大きいといわれます。
そのため長い時間をかけて一般の人にも浸透してから、実際の税額変更に踏み切るものと思われます。
酒税の小売価格を決めるのはお酒を製造している業者なので、その決定に法律が影響を与えるということです。
配偶者特別控除の見直し
これまで配偶者控除は、配偶者の合計所得金額が38万円(給与収入のみの場合は年収103万円)以下の場合は、納税者の取得金額に関わらず配偶者控除が適用されました。
また配偶者の年収が103万円以上の場合も配偶者特別控除が適用され、最大38万円が控除されました。
今回の改正により、配偶者と納税者の年収によって配偶者特別控除が決まる基本形に変更されています。
たとえば所得38万円の配偶者と婚姻している納税者の所得上限を85万円(給与収入のみの場合は150万円)に引き上げるとともに、この場合は配偶者の合計所得金額123万円までは特別控除の対象となりました。
<所得38万円の配偶者が利用できる配偶者特別控除制度>
改正前 | 控除額38万円 |
改正後 | 所得額38万円、納税者所得額85万円まで。 (以下段階的に減少)。 |
まとめ ~ 税制改正の背景
ここまで6つの税制改正を見てきました。そもそも、税制改正はなぜ行われるのでしょうか。
法律を作ったとき、前提とした年齢別分布な家族の形があります。
その家族の形が法律制定後10年、20年という時間を経ることによって大きく変わっていきました。
なかには配偶者控除尾ように、家族で男性(主人)のみ働くことが当たり前だった時代から変わり、「共働き」のもと法律をつくることが求められるようになった、という背景もあります。
そうはいっても日本中の家庭がすべて共働きではありません。
共働きの家計もあれば専業主婦の家計もあります。
そのバランスを見ながら法律はを改正をしていかなければなりません。
実際に昨年、配偶者控除を廃止して、共働き用の所得控除である「夫婦控除」を政府は提言しましたが、「専業主婦を圧迫するのか」という反対意見が噴出して廃案に追い込まれました。
国外への居住年数による相続税・贈与税の特例措置やタワーマンション居住階による固定資産の評価額も同様です。
どちらも相続税や贈与税、固定資産税という長い期間をかけて整備された法律があるも、国外居住やタワーマンションといった「新しい概念」が誕生し、対応を求められました。
実際に現在「自筆」に限定され、パソコンによる執筆が許されていない自筆証書遺言も、まもなく相続税法が改正され、パソコンによる作成が解禁されるといわれています。
そのうちにインターネットで保存した遺言が認められ、親の住処から子どもの住処に一瞬で渡る時代が到来するのかもしれません。
その第一歩としての2017年の税制改正。今後の流れに注目ですね。
執筆者
工藤 崇株式会社FP-MYS代表取締役社長兼CEO
ファイナンシャルプランニング(FP)を通じて、Fintech領域のリテラシーを上げたいとお考えの個人、FP領域を活用して、Fintechビジネスを開始、発展させたいとする法人のアドバイザーやプロダクトの受注を請け負っている。Fintechベンチャー集積拠点Finolab(フィノラボ)入居企業。FP関連の執筆実績多数。東京都千代田区丸の内。