非課税枠を使って節税もできる!生命保険の贈与税を解説
生命保険はいざという時に備えられるという本来の目的に加えて、税金でも優遇されるという特徴があります。
よく知られているのは、「生命保険料控除で所得税・住民税が軽減されること」と「生命保険金受取の際に相続税が非課税になる部分があること」です。
ただ、それ以外にも「贈与税の非課税枠」を活用した節税方法もあるんです。今回は、生命保険を活用した贈与についてお話しします。
生命保険に関わる相続税と贈与税の違い
生命保険金を受け取った場合にかかる税金と言えば「相続税」と思う人がほとんどでしょう。
確かに、多くの人が加入している定期保険や終身保険などで「死亡した人から財産を受け取る」形になる場合には、死亡保険金が相続財産に加算されて相続税の対象となります(非課税枠あり)。
しかし、実際には、契約の仕方で贈与税がかかる場合もあります。
主な生命保険について、どのような税金がかかるかを下の表にまとめました。
契約者 | 被保険者 | 受取人 | 税金 | |
---|---|---|---|---|
定期保険 終身保険 | A | A | B | 相続税 |
A | B | A | 所得税・住民税 | |
A | B | C | 贈与税 | |
養老保険 (満期保険金) | A | 誰でもOK | A | 所得税・住民税 |
A | 誰でもOK | B | 贈与税 |
今回は、この中から「贈与税」が課税される生命保険の活用方法をクローズアップして解説します。
ただ、贈与税は相続税よりも多額の税金がかかります。
何も考えずに贈与税がかかるタイプの生命保険に加入してしまうと、保険金受取時に多額の税金がかかってしまい資産形成に影響する可能性があります。
課税される税金の基準を簡単に説明すると、
相続税→ 死亡した人の財産を受け取る場合
所得税・住民税→ 保険金を自分で受け取る場合
贈与税→ 保険金という形で生きている人の財産を受け取る場合
というイメージです。
まずは、贈与税のしくみを理解しましょう。
[macth url=”https://www.money-book.jp/8014″]
満期保険金の贈与税はいくらかかる?
贈与税は、相続税と比べると、かなり税額が高くなってしまいます。
しかも、平成27年からは、税制改正で最高税率が引き上げられています。
ただ、その一方で、「特例贈与」という制度が設けられました。
一般税率と特例税率の違い
一般税率と新設された特例税率の税率はこちらです。
≪贈与税の税率と速算表≫
一般贈与 | 特例贈与 | |||
---|---|---|---|---|
基礎控除後の課税価格(A) | 税率 | 速算表 | 税率 | 速算表 |
~200万円 | 10% | (A)×10% | 10% | (A)×10% |
200万円超~300万円 | 15% | (A)×15%-10万円 | 15% | (A)×15%-10万円 |
300万円超~400万円 | 20% | (A)×20%-25万円 | ||
400万円超~600万円 | 30% | (A)×30%-65万円 | 20% | (A)×20%-30万円 |
600万円超~1,000万円 | 40% | (A)×40%-125万円 | 30% | (A)×30%-90万円 |
1,000万円超~1,500万円 | 45% | (A)×45%-175万円 | 40% | (A)×40%-190万円 |
1,500万円超~3,000万円 | 50% | (A)×50%-250万円 | 45% | (A)×45%-265万円 |
3,000万円超~4,500万円 | 55% | (A)×55%-400万円 | 50% | (A)×50%-415万円 |
4,500万円超~ | 55% | (A)×55%-640万円 |
※基礎控除額は110万円
※参照元:国税庁ホームページ 贈与税
この新設された特例税率は、
・贈与を受ける推定相続人がその年の1月1日で20歳以上であること
・父母や祖父母といった直系尊属から一定額以上の財産を貰った場合
に通常の一般贈与よりも税率を優遇するというものです。
具体的な贈与額としては、基礎控除後の課税価格(A)が300万円~4,500万円以下の場合、一般税率よりも特例税率が優遇されます。
ここで、実際に満期保険金を受け取った場合に、どれくらいの贈与税がかかるかをシミュレーションしてみましょう。
満期保険金を①夫や妻が受け取った場合にかかる「一般贈与」と②子供や孫が受け取った場合の「特例贈与」の比較もしてみます。
満期保険金が500万円だったとして、それぞれの場合で贈与税を計算します。
①夫や妻が受け取る一般贈与の場合
基礎控除後の課税価格:500万円-110万円=390万円
税率:20%
贈与税額:390万円×20%-25万円=53万円
②子供が受け取る特例贈与の場合
基礎控除後の課税価格:500万円-110万円=390万円
税率:15%
贈与税額:390万円×15%-10万円=48.5万円
このように、贈与税額自体が所得税などに比べると税率が高いものの、受取人を子供にた特例贈与の方が税額を減らせることがわかるでしょう。
とはいえ、近年は超低金利時代です。貯蓄性がある保険に加入していても運用比率が非常に低くなっています。
養老保険に加入しても、満期保険金から贈与税を差し引くと、総支払保険料よりも少なくなってしまう可能性が高いでしょう。
そうなると、いくら特例贈与になるからと言っても、贈与税がかかる保険に加入するメリットがないようにも思えてしまいます。
しかし、この点は「贈与の仕方」と「保険の加入方法」を変えることでクリアすることができるのです。
その節税方法を次に解説します。
贈与税の非課税枠を使って生命保険で節税ができる!
前述のシミュレーションでは、贈与税のかかる生命保険ではかなりの金額の税金がかかってしまうことがわかりました。
そうなってしまう原因は、贈与税の計算が満期保険金を受け取る1回だけで、基礎控除を使うのも1度だけだからです。
贈与税の非課税枠を使って保険に加入すると?
贈与税の非課税枠つまり基礎控除を上手く使うことによって節税することができます。
贈与税の非課税枠である基礎控除110万円は、毎年1年間(1月~12月)に受け取った贈与の総額から差し引くことができます。
その上で残った贈与財産が課税価格となり、受贈者が贈与税を支払います。この基礎控除は1年間で贈与した財産に課税されるため毎年使うことができます。
そこで、「満期保険金を贈与する」のではなく、「毎月支払う保険料を贈与する」と考えを変えてみましょう。
満期保険金ではなく、保険料支払うことにより贈与する場合
まず、加入する保険は養老保険や個人年金保険にします。
ただし、保険の名義(契約者)は財産を譲りたい子供や配偶者にします。そして、保険金受取人も契約者と同じにしましょう。
保険料の負担者は契約者である子供や配偶者となりますが、その保険料を贈与します。
こうすれば、毎年、贈与税の非課税枠を使いながら贈与することができるので、トータルの税額をおさえることができます。
年間の保険料が非課税枠110万円の範囲内であれば、贈与税額はゼロとなります。
ただし、満期保険金を受け取った時には、満期保険金から総支払保険料を差し引いた分に所得税がかかります。
なお、満期保険金を年金形式で受け取る場合には「雑所得」、一時金形式でまとめて受け取る場合には「一時所得」という扱いで所得税を計算することになり、他の所得金額と合計した所得をベースに課税されます。
子どもや配偶者に対する生前贈与に向いている、保険料を贈与しての保険加入
保険料を贈与して保険に加入する方法はどんな場合に有効な方法なのでしょうか?
それは、「子供や配偶者に、将来の資金を用意してあげたい場合」です。
将来、まとまった資金を、相続ではなく生前のうちに贈与したいと思っていても、その時にまとめて贈与すると前述のように多額の贈与税がかかってしまいます。
また、満期保険金を子供や配偶者が受け取る場合でも、受取額に応じた贈与税がかかってしまいます。
そこで、非課税枠の範囲内で、今のうちから少しずつ贈与していくのです。
子供や配偶者に養老保険か個人年金に加入してもらい、その保険料に相当する分を贈与します。
節税しながら、「将来の資金を用意する」という目的に沿った形にすることができるのです。
この方法は自分が死亡した後、死亡保障の生命保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)を使ってもまだ相続税がかかってしまいそうな場合にも有効です。
ただし、贈与の仕方には注意しなければならない点があります。
何年にもわたって保険料を贈与している場合、「定期贈与」とみなされてしまう場合があります。
例えば、毎年50万円の保険料を10年間贈与し続けるということを贈与者と受贈者で約束(契約)している場合には、贈与契約をした年に500万円分の贈与を受けたものとして贈与税がかかってしまいます。
「贈与するから保険に加入しなさい」と伝えて贈与契約書を作成しているケースなどでは、定期贈与にあたってしまうのです。
この点については、税理士や弁護士などの専門家に確認しておくことをおすすめします。
まとめ
- 保険で「生きている人の財産を受け取る場合」は贈与税の課税対象になる
- 贈与税は相続税と比べて税額が高くなってしまう
- 特例贈与に該当すれば、一般贈与よりも税率が低くなる
- 受贈者が保険に加入し、その保険料相当額を贈与すれば、贈与税の節税になる