医療保険(生保系)と実費補償型医療保険(損保系)の違いとは?
医療保険というと入院給付金日額5,000円などと、保障される金額を決めるのが通常型のイメージです。最近、ソニー損保の「Zippi」のCMがよく流れますが、名前そのままの実費補償型医療保険で、上記タイプの医療保険とは違うように思えます。
実費補償型医療保険は保険適用の医療費・適用外の差額ベッド代などを補償してくれます。
ですが、給付額には上限があること、定期型中心で保険料が年齢とともに上がっていく等のデメリットも押さえておく必要があります。
医療保険は生保会社も損保会社も扱える
保険には第一分野・第二分野・第三分野の保険があります。
- ・第一分野(いわゆる生命保険):生命保険・学資保険・個人年金保険など
・第二分野(いわゆる損害保険):火災保険・自動車保険・個人賠償責任保険など
・第三分野:医療保険・がん保険・介護保険・傷害保険・所得補償保険など
第三分野の保険は、アメリカンファミリーなどかつては外資のみが販売できました。現在も外資のシェアが大きい分野ではあります。
第三分野の保険は、平成13年に販売が自由化され生保会社・損保会社両方が扱えるようになりました。
生命保険と損害保険の根本的な違い
損害保険は、実際に出た損害(もしくはかかった費用)だけ保険金がおりるのが原則です。損害を受けたり、支出したりしたのにそれ以上に保険金で儲けることができないようにはなっています。
対して生命保険では、この保険金額を出さなければいけないということはありません。保障額は保険会社のメニューに基づいて、契約者が決めることになります。
いわゆる医療保険(生保系)の特徴
入院給付日額●円など定額給付型の保険
もっともポピュラーな医療保険は、入院給付日額を決めるものです。日額5,000円~10,000円で決める方が多いです。入院期間が長いほど多く給付金が出ることになります。
医療保険によっては通院給付金・手術給付金が出るものもあり 手術給付金の場合は1回20万円などというように保障額を決めます。
終身型と定期型がある
定期型は、保険期間が5年・10年などと決められています。更新も出来ますが保険料は上昇します。年齢が上昇すると病気リスクが上がるためです。
終身型は保障が一生涯続き、保険料もずっと同じです。高年齢で入ると高めになりますので、若い時に入ったほうがいいのですが、例えば25歳ですと終身・定期では終身のほうが高めになります。
掛け捨て型と貯蓄型がある
掛け捨て型と貯蓄型という分類もあります。掛け捨て型は、病気などにかかり所定の状態になった場合のみ保険金がおります。貯蓄型は保険期間の満期時・死亡時に保険金がおりたり、あるいは病気しない場合でも健康祝金の形で保険金がおりたりします。
貯蓄型保険に関しては、各保険会社が予定利率を決めて保険料に反映させます。予定利率は、長期10年物国債金利(長期金利)をもとに金融庁が定めた標準利率に基づきますので、国債の金利状況により左右されます。
貯蓄型保険は、払った保険料が戻ってくるので人気がありました。しかし日銀の低金利政策などにより長期金利が下がってくると運用状況が悪くなり、保険会社は返戻率(払った保険料に対するもらえる保険金の割合)を落として販売することになります。
実際に平成29年4月から標準利率が1%→0.25%に下がったことによって、貯蓄型保険の保険料上昇が起きています。
掛け捨て型は払った保険料が戻ってこないというデメリットもありますが、こういう金利状況を気にしなくて良いというメリットもあります。また掛け捨て型のほうが保険料は安めです。
実費補償型医療保険(損保系)の特徴
実損填補という損害保険の性格にあった保険
かかった医療費の分だけ過不足なく出るというのが大きな特徴で、損害保険会社の商品らしい医療保険と言えます。
すでに解説した定額給付型の保険ですと、かかった医療費に見合う給付ができません。実費補償型ではそれを防ぐことができます。
なお保険適用の医療費は、窓口で総医療費額の1~3割を負担します。それに対してあるひと月の医療費が一定限度を超えれば、限度額を超えた分だけ高額療養費が支給されます。さて、補償される金額は窓口負担額に対してでしょうか、それとも窓口負担額から高額療養費を差し引いた後(相殺後)の金額なのでしょうか?
Zippiは相殺前、AIU保険会社の「スーパー上乗せ健保」は相殺後の負担額に対して補償されます。このため、高額療養費の申請をして「Zippi」の保険金をもらった場合は、実費以上の保険金をもらうことになります。
差額ベッド代などが出るものも
実費補償型医療保険には、健康保険適用の(いわゆる1~3割負担の)医療費だけでなく、差額ベッド代や食事代・交通費も出る商品もあります。
食事代は健康保険適用されるものもありますが、差額ベッド代は保険適用外(したがって高額療養費も支給されない)、かつ所得税の医療費控除対象外にならないケースもあるため、これは大きな特徴と言えます。
海外旅行保険の医療費補償を応用している
海外旅行されている方は、損害保険会社やカード会社の海外旅行保険をご存じでしょう。ある格安旅行会社の破産においても、海外旅行保険の返金が話題になりました。
この補償内容には、海外で病気になった場合に、支払った医療費を補償するというものがあります。この医療費補償も実費補償であり、実費補償型医療保険はこの国内型とも言えます。
医療費控除(確定申告)の計算はしやすい
確定申告で医療費控除を活用する際に気をつける点としては、医療保険金がおりた場合には医療費控除額からマイナスしないといけないことです。
この計算は複雑なところもあり、例えば5万円かかった入院医療費に8万円の入院給付金がおりた場合は、差し引く入院給付金はかかった医療費分の5万円だけで良いのです。間違って8万円差し引くと、税金を多く支払うことになります。
その点実費補償型は5万円かかった医療費に対してはちょうど5万円おりますので、医療費控除の計算もしやすくなります。
実費補償型医療保険の注意点
がん保険や定額給付型併用もある
補償をがんに特化したがん保険においても、実費補償型は存在します。
例えばAIU保険会社の「スーパー上乗せ健保 がん保険」においては、保険適用医療費の他、保険適用でない先進医療の技術料・病院への交通費も補償されます。
また入院中の治療費用に加え、退院後通院中の治療費用もガン回復支援費用保険金として補償されます。この保険は、定額給付型と併用プランにもなっています。
ガン治療費用保険金・ガン回復支援費用保険金は実費補償される保険金ですが、ガン入院医療保険金・ガン通院医療保険金は日額給付型の入院給付金・通院給付金であり、ガン手術医療保険金・ガン診断給付金は1回あたりの金額が決められた給付金です。
これらの定額給付金は、生命保険会社の医療保険とほぼ同じ形の給付金です。
補償上限の設定はある
注意いただきたいのは、実費補償と言っても原則は青天井ではないということです。保険金の上限額は例えば差額ベッド代1日1万円(スーパー上乗せ健保)などと設定されています。上限を設定することで、保険料の高騰を防いでいます。
ちなみに保険料は35歳男性のケースで、「Zippi」(特約無し・期間5年の定期)は月額1,293円、「スーパー上乗せ健保」(期間10年の定期)は月額2,700円です。
ちなみに外資生保系A社の医療保険は、期間10年の定期で入院給付日額5,000円なら月額870円、入院給付日額10,000円なら月額1,740円になります。
商品によっては無制限のプランもあります(がん保険ですが、セコム損保の「メディコム」など)。がん保険のような補償範囲が狭い保険だからこそできることです。
入院期間が短いなら有利
入院給付金は、日額5,000円などと決められているため、入院期間が短いと給付金が少なくなります。実損補てん型は実費負担のため、入院期間が短くても補償が厚くなります。
定期型保険が基本
実費補償型の医療保険・がん保険は、終身型は無く定期型ばかりです。
健康保険医療費の窓口負担割合に関しては、国民皆保険制度を導入して以降、高齢化社会への移行にともなって増加しつつあります。現状では終身保険のように一生涯保険料を固定させると、実損補償型は成り立たないという事情があります。
終身型の保険は、定額給付型であればこそ成り立つと言えます。
実費補償の魅力があるがデメリットもふまえて
「実際にかかった分だけ補償される」と謳っている保険に契約することで、安心感を得られる一方で、上限が設定されているなど想定外のデメリットに悩まされることもあるので注意が必要です。
がん保険のように補償範囲が限られているのであれば無制限補償もありますが、実際は上限設定されているほうが一般的です。また終身のつもりで契約したい場合でも定期型の更新で保険料が上昇しますので、それに耐えられるかが問題です。
「実費補償」より「一生涯保障」に魅力を感じるのであれば、定額型の医療保険のほうがいいのかもしれません。
執筆者
石谷 彰彦ファイナンシャルプランナー
保険代理店を兼ねる会計事務所に勤務し、税務にとどまらず保険・年金など幅広くマネーの知識を持つ必要性を感じファイナンシャル・プランナーの資格を取得。保険・年金・労務・税金関係を中心にライティングを行う。