保険で資産運用は正しい?正しくない?変額保険を検討する際のポイント
変額保険とは、保険金の受取額が資産運用の成果で増加することもある保険です。死亡保障と資産運用をあわせもった金融商品であるため、興味を持つ人もいるのではないでしょうか。
死亡保障の最低額が保証されているためメリットが大きい保険だと思えるかもしれませんが、個人的には「投資のために」変額保険に加入するのはおすすめできません。
今回は、変額保険に加入する意義について考えてみたいと思います。
死亡保険金が増えるかもしれない変額保険の仕組み
変額保険は、生命保険の一種です。保険金が支払われるパターンには、終身型・年金型・有期型があります。
- ・終身型:死亡保障が一生続くタイプ
・年金型:あらかじめ定めた年齢になると、保険金を年金形式で受け取ることができるタイプ
・有期型:満期までに死亡した場合は死亡保険金、生存していた場合は満期保険金を受け取ることができるタイプ
変動保険では、支払った保険料の一部が「特別勘定」という別の場所に管理され、通常の保険よりもリスクが高い金融資産で運用されます。
死亡保険金額が500万円の変額保険に加入した場合、死亡時の保険金は運用の成果によっては500万円よりも多くなる可能性があります。
しかし、運用成績がよくなかったとしても、最低保証として500万円の死亡保険金が支払われます。
このように死亡保険金額が変動するため「変額保険」と呼ばれています。
なお、解約した場合の解約返戻金には最低保証はありません。
これだけを聞いていると、「儲かったら増えるけれど、損をしても減らない」夢のような保険だと思ってしまいそうですが、必ずしもそうではありません。
変額保険の運用コストは投資信託よりも高くなる
変額保険では、特別勘定に移された保険料を投資信託に投資して運用します。
投資信託のラインナップは各社で多少の差があるものの、日本株・世界株・日本債券・世界債券・バランス型(※)といったものから選ぶことができます。
※バランス型は、株や債券を組み合わせて運用するものです。
投資信託を購入した場合には、運用に必要なコストがかかります。
支払ったお金を投資のプロに運用してもらうことになるため、信託報酬という運用手数料を支払わなければなりません。
また、保険会社に支払う特別勘定の管理コストも必要です。
これらの費用は毎月支払う保険料の中に含まれているのではなく、資産運用する原資である積立金の中から差し引かれます。
ただ、この信託報酬等が、やや割高になっている場合もあるのです。
例えば、ソニー生命の変額保険のパンフレットに書かれている内容によると、次のようになっています。
- ・特別勘定運営費用:株式型で年率0.0439%
・日経225連動型上場投資信託:信託報酬は年率0.2592%
以内(現状は0.2592%と想定されます)
この2つのコストを合計すると、約0.3%となります。
このパターンと似た「日本株の日経平均に連動する投資信託」と比較すると、運用コストはやや高いと言わざるをえません。
保険会社によっては、もっとコストが高く設定されているものもあります。
「日経225連動型上場投資信託」は証券会社を通して購入することも可能ですが、その場合のコストは信託報酬の0.2592%のみです。
また、他の投資信託やETFに目を向けると、信託報酬が0.2%を切るものもあります。
つまり、変額保険を使っての投資では、証券会社を通して投資信託を購入した場合よりも、コスト差分だけ運用成績が低下してしまうのです。
年間0.1%程度なら大した差はないと思われるかもしれませんが、それが50年分まとまれば5.0%相当になります。
さらに、そのコストを差し引かれた分が次の年以降の投資資金に影響を与える「複利効果」もあるため、かなりの差が生まれてしまうでしょう。
変額保険で保険金が増えるのはどんな場合?
次に、運用がうまくいって保険金が増えるのはどんな場合なのかを考えてみましょう。
近年の変額保険では、予定利率が3.5%程度で設定されている場合が多いようです。
この場合、保険金を受け取るまでの平均運用成績が年率3.5%を超えていれば、保険金が最低保証額よりも増額されると考えてください。
とはいえ、実際には「毎年3.5%のリターンになる」ということはありえませんから、「ほとんどの年で3.5%を超えるリターンを出している」とイメージしてもらった方がいいかもしれません。
アクサ生命のホームページには、運用実績シミュレーションが掲載されています。
ここでは、30歳男性が30年後の60歳時点で生存していたら保険金が受け取れる養老保険タイプの変額保険でシミュレーションされています。毎月の保険料は20,000円で、基本保険金額が901万円となっています。
運用実績が3%の場合では保険金は901万円のままで、運用実績が7%になると保険金が1,850万円になると記載されています。
しかし、この保険料を全額資産運用に回していたとすると、どれくらい資産が増えているでしょうか。
概算ですが、30年間、運用実績が3%だと1,100万円を超え、7%では2,300万円を超える金額になります。
この金額と比べると、受け取る保険金額は2割ほど少なくなくなっています。
変額保険は「保険として」使うことに意義があります
上記のように、この低金利下で30年間、3%を超えるリターンを維持し続けるのはかなり困難です。
将来的に株価などが上昇して多くの人が3%を超えるリターンを得られる環境になった場合は、銀行金利も上がっているはずです。
その場合には、生命保険の予定利率も引き上げられて、保険料は安くなり、当初加入した変額保険よりも有利な生命保険がほとんどになっているでしょう。
かといって、その時点で解約しようにも、運用状況次第では、あまり多くの解約返戻金が帰ってこないかもしれません。
こういったことから考えると、数十年間、3%を超えるリターンを出せる自信のある人にとっては、変額保険は不利な金融商品です。
自分で資産運用する方が、資産形成上は圧倒的に有利です。
一方で、途中解約するつもりがない人にとっては、メリットがあるでしょう。
最終的に支払われる保険金には最低保証があり、通常の終身保険よりも安い保険料となる場合もあります。
その上で、幸運にも運用成績がよければ、保険金の受取額が増えるかもしれないのです。
もちろん、生命保険の一種なので、生命保険料控除や相続税の非課税控除額の恩恵を受けることができます。
こういった生命保険の特徴を利用した上で、資産運用には自信がないけれども、将来的なインフレで保険金の価値が目減りしてしまうのを避けたいと考えるのであれば、変額保険のメリットを活かすことができるかもしれないでしょう(※)。
※「インフレ下では必ず保険金が増える」というわけではないため、保険金が増えるというメリットが受けられない可能性もあります。そのため、「かもしれない」という表記にしています。
変額保険は、あくまで保険として活用しましょう
このように、変額保険は「資産運用で保険金を増やすことができる生命保険」とは考えない方がいいでしょう。
あくまで「途中解約を考えない生命保険」として活用し、そこにインフレリスクへの対策を加えたものだと考えるべきです。
資産運用はリスクを取るものであり、生命保険はリスクを軽減するものです。
その2つを同時に満たすのは非常に難しい話です。
変額保険は、あくまで「保険」として利用するというスタンスで考えるべきでしょう。
執筆者
横山 研太郎ねこのてFP事務所代表
富士通株式会社退職後、メーカーの経営サポート等を行う。 現在は、ファイナンシャル・プランナーとして、資産運用を柱としたアドバイスをするだけでなく、学生への金融教育にも取り組んでいる。